男マンの日記

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背川昇「キャッチャー・イン・ザ・ライム」一巻。ラップバトルと青春と。

背川昇「キャッチャー・イン・ザ・ライム」(小学館)一巻を読んだので感想を。この漫画はスピリッツ連載ですが、私が知ったのはビッグコミックの作品サイト

ビッグコミックBROS.から。現在も第一話が試し読み出来ますので、四の五の言わずに読む、面白かったら買う、というのが一番かと思います。

キャッチャー・イン・ザ・ライム(1) (ビッグコミックス)

キャッチャー・イン・ザ・ライム(1) (ビッグコミックス)

 
 

この漫画、内気で無口、というか話すことについて臆病な主人公、高辻皐月が女子高に入学するところから始まります。最初の自己紹介で「自分を変えよう!」と色々話そうとしていたんですがそれに失敗。ガックリ来ながら校内を歩いていると、二人の生徒が言い争っている場面に出会います。

その二人、幼馴染の天頭杏と南木原蓮は段々ヒートアップしはじめ、配ろうとしていたチラシをその場に撒き散らして始めたのが「ラップバトル」だったのです。そう、彼女たちは「ラップバトル部」を作ろうとしている一年生。部員勧誘のためにラップバトルを行っていたのです。

そしてそれを見た皐月は感激し、勇気を出して二人とともにラップバトル部を作ることに。そしてそこから皐月がラップに触れていき、自分が何故話すことについて臆病なのか。思ったことを思うように伝えられないのか、ということに向き合っていく。それがラップというもののテーマでもあり、この作品の漫画としてのメッセージでもある理由です。そしてそれは皐月以外の二人、杏と蓮にも言えること。二人でラップバトルをしていたところに皐月という異分子が入ってきて部活を作ろうとすることで彼女らも変わっていく。

ちなみに私もフリースタイルダンジョンでラップバトル初めて見た程度の知識レベルなのでラップについてはほぼ知らずに読み進めましたが、そんな人にも安心。ラップ初心者の皐月に杏と蓮が説明していく、というていで基本的な知識は読むにつれて入ってきますし、細かい知識については説明ページも儲けられているので、読んでて全然ピンと来ない、ということはないと思います。漫画自体の構成も、ラップ部分の写植表現については細心の心遣いがされており、韻を踏む部分は強調表示したりとか、吹き出しもラップの勢いに応じた表現がされているので読んでいてノリが伝わってきます。ラップのマンガ表現については頑張っているし、ラップを漫画にすることには成功していると思います。

ちなみに私は「サイファー」をこの漫画で知りました。動画は監修に入ってるR-指定とそのR-指定とライバル関係にあるDOTAMAのサイファー。R-指定は右、左がDOTAMAです。言葉の渦が心地よく、互いの関係性が伝わってきてよいものです。

www.youtube.com

ちなみにこの漫画、売り文句に「百合ラップ漫画」とありますが、正直「百合」的要素というよりは、真っ当な女子同士の友情物語。むしろ距離感的には男性同士の関係に近いのではないでしょうか。まあ女子高の部活でラップしてるので、女の子同士がイチャイチャしている感はありますが、性的な要素は特にない(まあ、最後の方にシモネタキャラは出てきますが)健全な青春モノと言えるでしょう。

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色々と書き連ねてきましたが、女子高生の青春漫画として優れた一冊。それぞれのキャラクターが持つ家庭や友人関係での悩みなどが言葉に乗っかって表現されるので、読み手にしっかりと伝わってきます。

そして各キャラが紡いでいく言葉の内容がそれぞれのパーソナリティーをしっかりと反映しているのも素晴らしい。特に主人公の皐月。ヒップホップ的な文化に全く親しみもない文学少女である彼女のラップは自身の育ち、志向をしっかりと反映した美しい言葉。彼女がこのラップを紡ぎ出すまでの悩み、苦悩、そして言葉を発した瞬間の開放、人格が変わっていくようなカタルシスが描かれています。

ニ巻では新たなライバルが出現しそうでまた楽しみですが、その前にとりあえず一巻を読むべき。お勧めラップ青春漫画です。ただ百合ではない! 

キャッチャー・イン・ザ・ライム 1 (ビッグコミックス)

キャッチャー・イン・ザ・ライム 1 (ビッグコミックス)