男マンの日記

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ザック・セイバーJr ニュージャパンカップ2018優勝。新日本の道場論は死んだのか。

ザック・セイバーJrと棚橋弘至のニュージャパンカップ決勝を新日本プロレスワールドで見た。準決勝のSANADA戦での村田アナ、ミラノコレクション解説、タイチゲスト、という布陣が絶妙すぎたので、今回の大西アナ、柴田さん解説、山ちゃん解説、という布陣は準決勝より見劣りするかと思ったけど大西アナはしっかりと試合を捉えていたように思う。無闇な絶叫はせず、試合のトーンに合わせて邪魔しない実況、解説だったのではないかと。それに柴田さんの解説は性善説というか、陽気なトーンが聴いていて心地いい。プロレスへの信頼を感じる解説。

 

試合自体は私に結構一方的なザックの試合だった、というふうに見えた。棚橋の試合を見たのは鈴木みのる戦以来だったけど、やはりヒザは悪そうで、歩き方やたたずまいが武藤敬司のそれに似てきたように見えた。

序盤からザックが仕掛けていき、棚橋がその技からなんとか逃れるがザックが次の技に移行していく。棚橋はその場その場では逃れていくが、なかなか攻め込むまで至らない。

ここらへんの序盤の攻防を観ていると、やはりどうしても棚橋のヒザが気になってしまう。グラウンド状態でスピーディーな動きや回転がなかなか出来ず、ザックの技を受けて止まってしまう。ここで互いにどうやって技を切り返して、その切り返しをさらにどう返していくか、というところにグラウンドの攻防の醍醐味があると私は思ってるんだけれど、今回のニュージャパンカップでそれを見せてくれたのはSANADAくらいだった。

一回戦の内藤ははじめからズルめの駆け引きから試合に入っていったし、二回戦の飯伏は打撃VS関節技、という展開に持っていこうとしたのでガッチリとした序盤のレスリング、という展開はあまり見れなかった。

そしておそらく今回の棚橋とSANADAはどちらも序盤からオーソドックスなレスリングから入ろうとした。そう考えると、よりグラウンドに順応して切り返しを見せていたSANADAに比べ、棚橋はわりと技をかけられると逃げる、耐える一辺倒になってしまっていた。ヒザを痛めている、というのもあるが、グラウンドテクニックの引き出しに関しては腕の取り合いなどを見ても、10分ほどじっくりと切り返し合うグラウンドの攻防に付き合ったSANADAのほうが上だったように見えた。

その10分間はまさに私が思うプロレスを見る喜び、互いを信頼し合ったレスラー達が技を出し合い、互いの頭脳、技術、力を確かめ合う幸せな時間だった。 

ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門

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 しかし、SANADAは今は新日本所属だけれど、もともとは全日本プロレス期待のエースだった。そこから海外のTNAに渡り、日本に戻ってきてから新日本に参戦した、という経緯がある。つまり全日本、北米でキャリアを積んできたSANADAのほうがザックに対応できた、という事については設立当初からストロング・スタイルを標榜し、現在も道場論をベースにおいている新日本プロレスは危機感を持たないといけないように思う。

それにSANADAですらザックのテクニックを上回れていない現状では、新日本プロレス、という戦いの舞台自体がザック・セイバーJrというレスラーのポテンシャルを引き出しきれていない、ということになる。

私が見たザックの海外インディーでの試合では、序盤のグラウンドの攻防で大きな歓声が湧く時がままある。そこには自分のバックボーンを生かして相手の技をどう返していくか、そしてそれをまたどう返すか。チェスのような戦略ゲームとしてのスリリングさとスピード感。このような場面でザックは多彩な技と閃きで輝きを見せる。しかしその輝きはまだあまり新日本プロレスで発揮されていないのは悲しい。 

新日本プロレス、という団体は全日本プロレスとめくるめく抗争を繰り広げる中で「ストロングスタイル」、「道場論」をベースにしてきた。猪木自身が馬場に体格では劣り、大型選手を擁する全日本プロレスが「王道」を標榜するのに対抗して「ストロングスタイル」、「道場での練習量」、「強さ」をウリにしてきた。そしてそれをウリにしてきたために総合格闘技の隆盛の影響をモロに食らって低迷。猪木と新日本プロレスとの関係性が切れるとともに「ストロングスタイル」という言葉を出さなくなった。

そこから今の路線に切り替えて今の隆盛に至るのだが、新日本プロレスに「最強」、「道場での猛練習」というイメージを持つ人は多いだろう。新日本自体もそのイメージに未だに乗っかってるが、果たしてそうだろうか。という疑問が今回の結果を見て浮かんでしまう。

   

ザックが優勝したから、ではない。内藤と棚橋がザックの寝技に対応出来なかった。「ジャパニーズ・スタイル」と呼ばれることもあるザックのスタイルがいつの間にか新日本プロレスを凌駕し、新日本プロレスのレスラーがザックに対応できなくなっているという事実をこのトーナメントで突きつけられてしまったのだ。黒船、という使い古された言葉が相応しいかどうかわからない。ザックは元々プロレスリング・ノアで日本デビューを果たし、2012~2015年の間参戦。小川良成とのタッグでベルトも獲っている。ノアが新日を倒した、と言ってしまうと意味付けが過ぎるけれど、ザックのプロレスにノアが影響を与えたことは確かだろう。そうなるとノアと同じく全日本をルーツとするSANADAと手があったのは頷ける。

 

そして、一夜明けインタビューでザックは新日本プロレスに対してチクリと一言。

――ザック選手の関節技は、オカダ・カズチカ選手のような体格の大きい選手にも有効ですか?

ザック「『いえ。サブミッションで勝てるとは思えません』と答えるんだったら、実家に帰った方がいいんじゃないかなと思う。自分はオカダを倒すだけでなく、サブミッション、ピンフォール、なんでもいい。自分がフィニッシュをして、オカダがIWGPヘビー級王座から陥落する。それもギブアップでな。すると、今度は彼が史上最年少でのIWGPヘビー級王座戴冠、ベルト保持期間、防衛回数もみんなの記憶から薄れていくだろう。そして、自分がイギリス人として初めてのIWGPヘビー級チャンピオンというのが記憶に残るはずだ。

新日本プロレスはもともとサブミッションをベースとしているプロレスラーが多かったのに、どうしたんだ? 英国もサブミッションレスリングというものが根底として大きく広がっている。それを自分は戻したいと思っている。アメリカのいま流行しているカッコつけただけのカメラ目線をキメて、Tシャツを売るだけのプロレスではなく、自分を見てほしい。こんなスキニージーンズを穿いたオシャレ男子が、日本と英国の歴史あるプロレスのスタイルというものを持ち帰りたいと思う。そして、ブライアン・イーノを知ってるか? アンビエント・ミュージックを創り上げた人だけど、自分は彼のように古き良きものから新しいも創り上げる。そういう人になりたい」

 この記者がどういう意図でこのような質問をしたのかはよくわからないが、ザックに「どうしたんだ?」と言われてしまう新日本プロレス。そしてザックには「どうしたんだ?」という資格がある。

 

ザックがトーナメントで優勝しても、新日本プロレスは変わらず業界の盟主だし、会場も満員。時々停滞しつつも隆盛を誇っている。ただ、今回のトーナメントで、新日本プロレスが「当然持っているもの」と思われていた技術が失われていて、その技術を持つものに翻弄された、という事実は残るだろう。新日本プロレス道場で育った棚橋、内藤がザック・セイバーJrに寝技でいともたやすく翻弄される。今や海外のレスラーも入りたがる新日本プロレスの道場。多少センチメンタルだが、「最強」の人間を育成していると私が思っていた道場は、見栄えのいい筋肉を持つ、見栄えのいいプロレスラーを育てる場所に過ぎなかったのかもしれない。

これからザックはオカダに挑戦する。その結果が勝ちであれ負けであれ、私はオカダがザックの技術にどう対抗するか。闘龍門から新日本プロレス、という経歴をたどったオカダの技術がザック・セイバーJrに通用するかをしかと見届けたい。

 

とりあえず、ザック・セイバーJr、ニュージャパンカップ優勝おめでとう!

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