男マンの日記

マンガ、落語、お笑い、プロレス、格闘技を愛するCG屋の日記。

映画「狂猿」見てきました。「狂猿」はデスマッチのカリスマ、葛西純のアイドル映画だった!

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葛西純の映画「狂猿」見てきました!

先日、シネマート新宿で葛西純を扱ったドキュメンタリー「狂猿」を見てきました。これを書いている7月13日時点ではかなりの劇場で公開が終了していますが、15日まで公開している劇場もいくつかあり、また8月に公開する劇場も少しながらあるのでまだ映画館で見ることは可能です。詳細は映画のHP「THEATER」ページを参照してください。

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この「狂猿」は、「デスマッチのカリスマ」葛西純選手に密着したドキュメンタリー映画。ただ、奇しくもちょうどコロナ禍の中の撮影だったのと、葛西がケガの治療のために長期欠場中だったため、序盤はなかなかローテンションなスタートとなります。

そしてそんな中、レスラー達のインタビューによって葛西の凄さが語られていきます。佐々木貴、本間朋晃、藤田ミノル、伊東竜二、ダニー・ハボック(!)、竹田誠志・・・。

 

ちなみに、葛西純に憧れ、デスマッチのレジェンドとして活躍したダニー・ハボックは2020年6月にこの世を去りました。この映画の最後にもダニー・ハボックに捧げる、というメッセージが記されています。

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そして、映画は葛西の過去回想、さすがに名場面が連発。後楽園でのバルコニーダイブカミソリ十字架ボードデスマッチ、そしてなにより2009年には伊東竜二とのシングルマッチであの

東京スポーツのプロレス大賞、ベストバウト賞

を獲得するなど、あくまで「デスマッチ」にこだわって「カリスマ」と呼ばれるようになった葛西純の歴史が語られていきます。

 

自分も2019年、VS藤田ミノル戦を観戦してました。凄く、かつ心に沁みるデスマッチを見せてもらいました。 ただ過激なだけじゃなく、想いが伝わるデスマッチ、とでも言いましょうか。人間が浮かび上がってくるところが葛西純のデスマッチなんだろうな、と感じました。

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ちなみに葛西純、2018年にはフジテレビの「アウトデラックス」に登場。スタジオ内にもかかわらず、ラダーからのボディプレスでテーブルクラッシュをカマすなど、お茶の間にデスマッチのかけらをお届けしていました。

デスマッチのままメジャーになってやろうという野心。これこそデスマッチのカリスマたるゆえんなのかもしれません。キュート! 

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そして映画では葛西純の復帰戦、海外ツアー、オオバコのイベントも予定されていましたがもちろんコロナ禍で中止。 なんとか新木場で復帰戦を行いますが、2020年、なかなかイベントの開催もままならない時期が続きます。そのなかでも団体のため、自らの生活のため、そしてファンのためにあがく葛西純。

そして少しずつイベントも再開し、試合を重ねてビッグイベント、後楽園ホールでのタイトルマッチ、杉浦透戦に挑んでいく。この映画は、ケガ、コロナで翼を失いかけた「カリスマ」葛西純がデスマッチのおかげで立ち直り、再び飛び立とうとする。

 

デスマッチで感動を与え、そして救われる。葛西純にとって、あくまで普通の「プロレス」ではなくて、「デスマッチ」じゃなくちゃダメなんだということ。みんなが知っている葛西純がそこには 描かれていました。

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狂猿は 「血まみれのアイドル映画」だった

この映画を見た後の感想としては

「これは葛西純を描いたアイドル映画だ」

と思いました。最も印象に残ったのはやっぱり試合のシーン。

いろんなアングルで、時にスローを織り交ぜながら葛西が自ら胸を切り裂いて血しぶきが飛び散るシーン、ガラスに突っ込んで破片が飛び散るシーン、対戦相手の額をカミソリで切り裂くシーン。互いの口に串を貫通させるシーン・・・。やっぱり劇場で、大画面で見ると迫力が凄い。試合開始直後に蛍光灯でブン殴り合うシーン使いすぎという気もしましたが、それでも絵力が凄い。思わず引き込まれました。

そして、思わずう!!ってなったのは、竹田誠志が試合中に怪我をして、えぐれた肉がリング上に落ちるシーン。ちょっと引くくらいの映像でしたが、やりすぎるとここまでいくのがデスマッチ。その手前ギリギリでせめぎあう難しさ。ほんとうになんというか、下世話ですがめったに見れない映像ではありました。

 

ちなみに竹田誠志は以前にも新木場のGCW興行で包丁ボードで背中を切る大怪我を負っています。しかしそれでも戻ってきてデスマッチをやる。葛西純だけではなく、竹田誠志もまたデスマッチに魅入られたレスラーの1人。個人的には怪我した後の竹田誠志ももうちょっと追ってほしかったなぁ、とも思います。 

otokoman.hatenablog.com

そして、オフで家族と過ごす葛西のほのぼのとした風景だったり、車の中で監督と気軽に喋る姿だったりとほっこりする光景も描かれています。個人的にはもうちょっとコロナ禍の苦しみ、怪我との闘いに踏み込んでほしかったとは思いますが、あくまで葛西純のイメージを裏切らない描写にとどめています。すでに葛西ファンの人達がさらに好きになる。初めて見る人にとっては、「こんな凄いことしてる人がいるんだ」という入り口になるような映画。そんな部分も含めて

 狂猿は 「血まみれのアイドル映画」

だった、というのがこの映画を見た私の感想でした。

ちなみに自伝はこちらから。映像より、より詳細かつ濃厚な情報が詰まっってます。

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まとめ

と、感想を書いてきましたが、この映画を見るちょっと前にラウェイのドキュメンタリー映画「迷子になった拳」を見て、ゴリゴリのドキュメンタリーというか、登場人物の毒、苦悩、感情の爆発に「あてられる」体験をしていました。 

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 なので、この「狂猿」もそのような濃厚さを期待して見に行ったんですが、予想とは違って俺たちの葛西純を楽しむ。見たら葛西純を好きになるまさにアイドル映画でした。

プヲタ的には試合シーンの迫力だけでも見る価値はある。

温かい、陽がさす部屋の中。D.I.Yでカミソリボードを自作する姿も見れる。

血まみれ&ハートフル。不思議な後味の映画でした。できるだけ劇場で見ることをオススメします!

 

待望のDVD&サブスク公開!伊東竜二との対談も

ちなみにこの狂猿、Amazonプライムでも公開中です。こちらのリンクからどうぞ。できるだけ大画面で見て頂きたい。止められるので、衝撃シーンをじっくりと堪能できると思います。怖いけど。

狂猿

狂猿

  • 葛西純
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そして、このサブスク公開に伴って葛西純と伊東竜二の対談も一緒に公開されていました。今は団体を別れた二人ですが、根っこは同じところにあるデスマッチファイター。こちらもセットで必見です。

そしてDVDも。今後出演者が犯罪起こしたり、サブスクの倫理規定が変わったときのためにやはりソフトで持っておきたいところはありますね。

というわけで以上です。

ラウェイ・ドキュメンタリー「迷子になった拳」観戦記。浮き沈み激しい人たちが彷徨う群像劇

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”世界一過激な格闘技”ミャンマー国技「ラウェイ」

4月22日、アップリンク吉祥寺にミャンマーの国技「ラウェイ」を描いた映画「迷子になった拳」を見てきました。今田哲史監督のドキュメンタリー映画です。予告編動画はこちら。

www.youtube.com

「ラウェイ」は、わかりやすく言うと「素手で殴り合うキックボクシング」。

世界一過激な格闘技とされ、頭突き、頚椎への攻撃、投げも許される。神事でもあり競技でもある。神に捧げる踊りを踊り、殴り合う。ダウンカウントも長く、とにかく起きて闘えるうちはひたすら闘う、という過酷さ。とにかく人間が極限まで削られる格闘技のため、選手たち、関わる人達のむき出しの感情が顕になる競技です。

日本でも元ZERO-1の中村祥之氏がプロモートして日本大会が行われ、後楽園大会が何度か行われています。プロレスラーの奥田啓介、高橋奈七永らも参戦したこともあり、私も何度か映像では見たことがありますが頭突きや素手の殴打で顔が腫れたり切れたりすることも多く、出血も頻繁に起きるためエグい場面が続出するのでそういうのが苦手な人は避けたほうが無難かもしれません。

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ラウェイを巡る、全力で蠢くクセの凄い人間模様

映画自体はラウェイの歴史、成り立ちを追いかける形で始まります。なにしろ撮影開始が2016年。が、メインで追いかける選手は日本人二人。金子大輝選手と渡慶次幸平選手。金子選手は学生時代にやっていた体操を怪我で断念し、総合格闘技などをやりながらラウェイを知ったことでミャンマーのジムで練習することになった本当に筋金入りというか、日本で頻繁に行われるようになる前からラウェイに参戦している選手。そして渡慶次選手は中村祥之氏プロモートでラウェイがおこなわれるようになってからラウェイに参戦、勝ったり負けたりしつつも徐々に頭角を現していった選手です。

映画の前半は金子選手を置い続ける形で進んでいきます。日本でラウェイが行われることはほぼなく、ミャンマーに渡って試合をする日々。最初はなかなか勝てずに苦労し、少しづつ勝てるようになってきたところでトラブルに巻き込まれる。なかなか人生も上手く行かず、ミャンマーに住み始めて彼女が出来ても上手く行かない。金子選手自身もネガティブなところがあり、見ていてイライラする場面もたくさん。だからこそ人間臭さもあり、愛せる部分もあるんですが、とにかく上手く行かない人生に感情移入してしまいます。 

そもそもミャンマーとのラウェイ対抗戦の団長だった小林聡も「おちこぼれたキックボクサーがやる競技」と言っていたくらいで、知名度もなくただただ過酷な競技だったラウェイ。それをミャンマーに行ってやっていた時点でかなり変人だとは思うんですが、その負けても立ち上がっていく姿にぐっとくる。人間的に好きにはなれないけれど圧倒されるものがありました。

 

そしてもうひとりの主役、渡慶次選手。渡慶次選手は妻子があり、中村氏のプロモートでラウェイ日本大会が行われる時に参戦、ハッキリと「お金が良いから」という理由で参戦し、参戦当初は減量失敗や負けがこんだりと上手く行かない日々が続きますが、徐々に順応していった結果人気も得てラウェイへの愛情も生まれ、ミャンマーに学校を作って支援するまでに。調子乗りではあっても人の良さもあり、試合の面白さでも人気を得ていくサクセスストーリー。もちろん子育てをしながら練習して闘うという苦労もあり、連敗する時期もあり、なにしろ一年に6回骨折するという苦境もありますが、それを明るく乗り越えていく姿はスカっとするし、応援したい気持ちになっていきます。

 

このように対象的な金子選手、渡慶次選手を追っていく過程で二人の家族、日本にミャンマー・ラウェイを紹介した高森拓也夫妻、ミャンマーに溶け込み、ラウェイに魅せられて紹介していく中村祥之氏、金子選手の「日本の師匠」のラーメン屋さん(強烈!)と、ラウェイに引き寄せられた濃厚な人たちが織りなす人間模様というか、もがき苦しむ人間たちへの讃歌というか。とにかく濃厚で濃密なものを見たい人にはオススメの映画になっています。諸々の事を考えつつエンディングの「ファイト」を聴くとなんというか、頑張って生きようという気持ちになりました。いや、濃厚な時間でした。

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そしてその日はスターダムの白川未奈選手とライターの尾崎ムギ子さんの対談付き。映画を見たあとの二人の話は金子選手のお母さんの話に終始。金子さんに「やりたいことをやるなら自分の金でやれ!」と終始正論で詰めていくお母さん。私も見ていて自分のことを言われているようでいたたまれない気持ちになりました。その後「稼げないなら仕事ではない」と親に言われた話などとにかく金子選手の話に終始。ダウナー&ネガティブながらも何かしら語らざるを得ない何かが金子選手にはあるのだと思います。

   

改めて見つめ直した、私が見てきた格闘技

この映画を見て思ったことがありました。私自身、プロレスから始まってPRIDE、HERO'S、DREAM、RIZIN。そして修斗、PANCRASE、DEEPと総合格闘技を見てきたし、K-1のような立ち技格闘技も見てきました。しかしそれは競技化された格闘技であり、ラウェイを見るともっと根源的な、闘う闘志、立ち上がってくる生存本能、痛みに耐える根性というような生身の感情がある。アスリートとしてはメジャーな格闘技のほうが上かもしれませんが、より心に訴えるものがあると感じました。なにか、自分が「格闘技」というものの一部しか見ていなかった、というのを痛感する。そんな映画だったように思います。

lostfist.com

そんな「迷子になった拳」の公式サイトはこちら。劇場情報も載ってますが、今回の非常事態宣言で公開日が変わっていたりもするので各自確認の上見にいってください。どよーんとしたり疲れたりすると思いますが、どこか力をもらえる作品なのは確か。是非一度見てみることをおすすめします。特に格闘技ファンであればなにか感じるところがあると思います。今回は以上です、おあとがよろしいようで! 

映画「パパはわるものチャンピオン」感想。ただただ木村佳乃だけ見てました!完璧!(木村佳乃は)

※2019/4/3追記

すでに公開終了、DVD,ブルーレイ発売してます。記事の最後にちょっとだけ追記してありますのでちょっとだけ御覧ください。

 

もうすぐ公開終了、ということで「パパはわるものチャンピオン」を見にTOHOシネマズ新宿に行ってきました。この映画は2011年に発売された絵本「パパのしごとはわるものです」とその続編「パパはわるものチャンピオン」を原作として、主演は新日本プロレスの棚橋弘至、奥さん役に木村佳乃、息子役に寺田心、その他にも仲里依紗、大泉洋、大谷亮平らを配して映画化したものです。

TOHOシネマズ新宿では一日一回上映になっていた(10月8日現在)ので、そろそろ見たいという方は行っておかないと映画館で見るのは難しいかもしれません。

 

www.youtube.com

 

この映画をどういう人達にオススメか。まずは棚橋ファン、新日本ファンにはオススメ。この映画、結構プロレスの試合シーンが長尺で入るんですが、試合シーンを演じてる(というか試合してる)のは新日本プロレスのレスラーたち。オカダ、真壁、田口らなので映画館で新日レスラーの別キャラの試合が見れる、というのはお得感ありますし楽しめました。そして試合会場が今は亡きディファ有明なので、ディファを懐かしみたい、感じたいというノアファンの方がいらしたら一見をお勧めします。

また、「プロレス会場行くのはハードル高いけど映画なら」みたいな人にプロレスの入り口として紹介するには適したパッケージなのではないかと思います。1800円だし、映画館なら行きやすいし。

 

   

 

ただ、自分が見て感じたのは、「頑張ってる棚橋」を楽しめる人にとっては楽しめる映画だとは思いますが、そうでなかったり棚橋に特に思い入れのない人にとってはドラマが薄く感じるんじゃないかと思います。棚橋自体の演技が達者でなく、表情の起伏などが伝わりづらいのと、中身に比べて尺が長い。そこはちょっと見ていて残念でした。

 

しかし、なんといってもこの試合、木村佳乃が素晴らしかった。棚橋の奥さん役で登場する木村佳乃ですが、美容院を経営しながら夫を助けて子育てするサバサバ系の奥さんを可愛らしく、かつ強い意志をもった女性として可憐に演じてます。生活感はありながらもだからこそ上品さと可憐さが滲み出ているというか。想定客層が年齢低めだからか、ときどき見せるコミカルな表情もまたかわいらしい。いや、完璧でした。

 

とまあ軽い感想としてはこんな感じで、わりと映画自体は楽しめました。しかし、この映画のプロレス解釈、また棚橋の行動にいまいち腑に落ちないところがあったのもまた事実なので、ここからはネタバレ上等でその部分について書いて行こうと思います。そこ気にしない方だけ読んでください。 

パパはわるものチャンピオン (えほんのぼうけん)

パパはわるものチャンピオン (えほんのぼうけん)

 
パパのしごとはわるものです (えほんのぼうけん27)

パパのしごとはわるものです (えほんのぼうけん27)

 

 原作となった絵本「パパのしごとはわるものです」、「パパはわるものチャンピオン」と映画の間には大きい違いがあります。まあそもそも絵本なので、それが二冊分あろうとも2時間の映画にするのはなかなか辛い。そこで原作に出てこないお母さん(木村佳乃)や、プヲタのお姉さん(仲里依紗)とかを足しているわけですが、ただ追加以外にも、わりと原作を大きく変更している部分があります。それが棚橋演じるパパの造形、心情です。

絵本での「パパ」は丸顔でずんぐりむっくりの優しそうなおじさん。プロレスラーでいうと関本や岡林のようなタイプ。棚橋とは真逆の造形になっています。そして「パパはわるものチャンピオン」では、ベビーフェイスのトップである「ドラゴン・ジョージ」が棚橋そっくりに描かれていました。

 

そして、ここが大きいところだと思うんですが、絵本では、自分の仕事を明かしてなかったパパ、会場で息子に出くわし、自分がゴキブリマスクだとバレてしまった後、笑顔で帰っていく観客達を眺めながら、息子に自分の仕事をこう説明します。

「わるものがいないと、せいぎのみかたがかつやくできないだろう?そのために パパはわるいことをしているんだ。わかるか?」

そして、それを受けた息子が

「わからないけど、わかることにする」

と答えます。この息子の答え、初めて読んだ時、これがプロレスの深さ、グレーゾーンをしっかりと表現していると思ったものです。そして同時に大人の社会というもの、全てが白黒ハッキリつかない部分についても説明している。

 

しかし、映画ではこの説明はされないまま進んでいき、パパ自身も自分がヒールであることに納得がいかない、過去エースだった自分がヒザをケガしたせいでヒールをやらざるをえない、というようなニュアンスで話が進んでいきます。この事自体原作の絵本とは真逆。ヒールという役柄を下に見ているような、頑張ればヒールから抜け出せる、というような描写が続くのです。

そもそもパパ自身がプロレスの「ヒール」というものを受け入れられていないわけで。その後ベビーターンして最後またマスクを被って闘う、結局最後はゴキブリマスクとして闘って息子にも認められるわけですが、最初の「ヒールである自分を認められない」状態から最後の「ヒールである自分のまま闘う」までの棚橋の心の動きの描写が全くないので、どういう心境の変化があったのかがわからない。なんとなくハッピーエンドみたいに終わりますが、自分はそこがモヤモヤしました。

 

また、映画では最後ゴキブリマスクとして正々堂々と闘って負けてしまいますが、原作の絵本ではゴキブリマスクが反則を犯しながら試合に勝ち、観客からものを投げられながら帰っていきます。

「パパは わるものの チャンピオンだ」

「だから せいぎのみかたに かって ゴミを なげられる それで いいんだ」

 

結局、棚橋を主役にしたことでパパのヒール色が薄まってしまい、ヒールでもベビーフェイスでもない半端な存在で終わってしまった。なので、ただひたすら棚橋が悩んで頑張る、という話になってしまった。そこがこの映画の残念なところです。

 

   

 

あとそもそも映画版のパパは息子に一切向き合わず、「パパはわるいからいやだ」、「プロレスやめてほしい」と言われたときもただ「頑張るから」と言って練習するのみ。自分しか見えていないのか・・・。と思ってしまった。なので私はこのパパに一切感情移入ができませんでした。う~ん。残念。

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なんとなく「主役が棚橋なのが全部悪いんじゃないのか」と思ってしまったこの映画。もう少しプロレスについて、ヒールについて繊細に扱ってほしかったな、という感想でした。うだうだいってすいません・・・。絵本はオススメです! 

※2019/4/3追記

そこそこ酷評しましたがちょっと前にブルーレイ&DVDが出たのでとりあえず貼っておきます。私以外みんな褒めてるので名作だったんでしょう多分。今となってはディファ有明のみならず、新日を退団してしまった北村克哉を見れるという価値まではからずもついてしまったこの作品。なんだかんだでプロレスシーンは完成度高いので、プロレス入門としてもいいのではないでしょうか。プライム・ビデオでも見れるので、Amazonプライム会員の方は軽い気持ちで見ていただきたい。

パパはわるものチャンピオン Blu-ray/DVDコンボ(豪華版)

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パパはわるものチャンピオン
 

映画「ペンギン・ハイウェイ」観戦記。少年の夏休み、不思議な事件、年上の女性との出会い・・・。

映画「ペンギン・ハイウェイ」を思い立ってみてきました。品川にあるT・ジョイPRINCE品川にて。

夏休み映画でもともとそんなに公開館数が多くなかったこの作品、公開から時間がたっていたこともあり、上映回数も絞られている中で客入りはけっこう好調。今回も土日で都内の映画館を色々探したけど軒並み満員。それだけ評判もよく、口コミ評価の高い作品と言えるでしょう。

 

www.youtube.com

 

自分が見に行こうと思ったのはこのPVから。よく動くし絵もきれいだし(語彙力の乏しさ・・・。)SF的な絵の楽しさ、その絵を動かすセンスに面白さを感じたから。ペンギンが生まれるシーン、次々と飛んでいくシーンなど「おお!」と思わせるものがありました。キャラ造形、絵柄も過度に装飾的じゃないところが見やすいというか。

 

penguin-highway.com

 

原作小説は森見登美彦。アニメ化作品としても、有頂天家族、四畳半神話大系、夜は短し歩けよ乙女など。個人的印象としては、シニカルでひねくれた世界観を持つ主人公がさらにひねくれた世界のなかでぐるぐると永遠にねじくれたあげくに最後にパッと世界がひらける、というような作風という印象があります。爽やかに言うと大人のファンタジーというか。なので、ペンギン・ハイウェイはちょっと違う、子供向けエンターテイメントという印象です。というか原作読んでないのでアレですが。というわけでネタバレなし感想とネタバレ感想をあげていきます。ネタバレなし感想はおまけ程度、ネタバレ感想が本番です。というわけでよろしくおねがいします。

 

   

 

 

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

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ペンギン・ハイウェイ 完全設定資料集

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ネタバレなし感想

ざっくり言うと研究好きな小学生男子が街中でいきなり登場したペンギンの謎を解くために奮闘する、という話。その謎に謎の歯科助手のお姉さんとかインテリ女子転校生などが絡んでくるという感じです。

 

見ていて気持ちよかったのはペンギン絡みのアニメーション。ペンギンが登場してくるときのアニメーション、そしてペンギン活躍シーンでは「これぞアニメ」というようなシーンが連発するので、絵的な見どころは後半中心に結構あると思います。全体的に作画は安定しているので心安らかに見れますが、図抜けてたりクセが強いわけではないので地味といえば地味ですが。

 

キャラクターは、主人公のアオヤマくん、ウチダくん、ハマモトさんとかわいらしく、ハッキリした悪役のスズキくんもそこまで邪悪な描かれ方でもないので映画を見ていてストレスがたまる場面はあまりなく、子どもたちの可愛さを愛でるにはよい映画。

一方で大人はあまり存在感はなく、そして子供ならではの無礼さとか理不尽な行動はあまりない。舞台の街やアオヤマくんたちの家からしても育ちのいい、しつけをきちんとされた子どもたちの話なので、上品な反面いわゆる「子供らしさ」は少し薄い印象です。なんというか、全体的な生活感が薄いというか。世間の雑多なものからは隔離されているというか。また、「おねえさん」は声が蒼井優なこともあり、行動もエキセントリックで心情も読みづらいので、この映画全体からの異物感がありました。少し浮いている感じで、このキャラクターは少し好みが分かれるのかなと思います。一人だけミニシアター系の実写映画っぽいキャラというか。個人的にはあまり思い入れられないキャラの一人でした。

 

そしてストーリーですが、個人的には後半、クライマックスに向けての加速感が少し足りないものの全体としてはまとまっているし、理不尽な部分もあまりなくすんなり見れました。ただ基本的にはペンギンについての謎を解いていった先に向けて話が進んでいくわけですが、後半部分の話の進み方が少し遅いような印象を受けました。謎が少しづつ解明されていく、というようなつくりというよりはヒントが散りばめられていくという感じ、ぐわーっと謎が視聴者にわかり、「ああ、そういうことか!」みたいな快感はあまりないかなと。そこらへんは簡単に処理されてしまっているのが残念です。

 

まとめの感想としては、そつがないし絵もきれいだし見どころもあるけど名作というほどではない、というところでした。見て損する、ということはないですが心に残るほどではない。一つでも心をつかむ、ぐっとくるシーンがあれば違ったと思いますが。ただ子どもたちがワチャワチャしてるのは楽しいしペンギンかわいいな~、というだけでわりと満たされたのでそういう映画です。ありがとうございました。

 

   

 

ネタバレあり感想

先程全体的にそつのない映画、と書きましたが、ひとつ個人的に気になったのは、作中での「おねえさん」の扱いでした。

アオヤマくんが「おねえさん」を好きで自分で「つきあってる」と規定して話が進むわけですが、わりと身も蓋もない疑問としては「おねえさん」の名前気にならないの?というところ。やっぱりそもそも好きな女性がいるんであれば色々と知りたい。そこでまず名前ってのは一番先に来ると思うんですが、そこがいきなりすっ飛ばされて特に説明がなかったのが気になりました。

アオヤマくん自身がそこを気にしないタイプだったとしても、勤務先の歯科医では名札つけてたり、名前で呼ばれたりするでしょうからアオヤマくんが耳にする場面もあろうというものだし、仮にそこがなかったとしても、「おねえさん」をライバル視してる描写のあるハマモトさんが「好きなのに名前知らないなんておかしい!」みたいな身も蓋もないことを言い放ちそうなもの。そこの関係性の不自然さを指摘する他人がいないのがこの作品で一番気になりました。

また、「大人が存在感がない」というところでは、子供同士で遊びに行くのはともかく、「おねえさん」と旅に行くときや家に行くときなど、母親がなにか一言ないのかとか、ラストの学校から抜け出して戻ってこないところとかでも親に連絡行って叱られたりしないのかとか。なんというか彼らの行動に対する大人のリアクション、身もふたもないことで叱ったり、指摘する人達が不在なことで現実との地続き感が薄まってふんわりとした作品になってる印象があります。

 

あとはまあ、おっぱい好き、という点でもあれだけ好奇心にあふれて研究してるアオヤマくんならそろそろ性の目覚めと言うか、「おっぱいをみてるとおちんちんがムズムズするよ、なんでだろう」みたいな研究してもおかしくないのにな~ともどかしく見てました。「おっぱいをみてると心が安らかになる」みたいなセリフを吐いてるので

「なんでだよ!興奮しろ興奮!逆だろクソガキが!」

とは思いました。

 

あとはやっぱり最後にアオヤマくんに号泣してほしかったな~、というのが自分の願望ですね。好きな人ともう会えない、というのが確定している場面で、最後まで最初のキャラクターの印象のまま別れてしまうので、あまり予想外の感動みたいなものを感じなかった。

ここは別れ際にお姉さんにうしろからしがみついて「いっちゃヤダ!」と号泣するとか、おっぱいに顔を埋めてぶるんぶるんしながら泣き叫ぶとか、そういう描写を入れてくれれば当方チョロい視聴者なんでボロボロ涙してたと思います。

やっぱり、普段冷静に努めている子供がそこにほころびを見せたりするところに人間性を感じられると思うので、最後まで同じトーンだったのが残念でした。キャラクターのまま終わっていったというか。

 

   

 

思い起こせば、このところが自分がいまいち入り込めなかった理由かな、と思いました。おねえさんとアオヤマくんの関係性も最初から最後までそんなに進展しないし。見始めと見終わりがあまり動かないまま終わったな~、という映画。少年少女モノは好きなので、そこが残念だったなと。以上!

  

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端的に、このくらい言って欲しかった。ハマモトさんいいキャラでした。

観てきました「この世界の片隅に」泣いた!笑った!刺さった!そしてほんのりエロい傑作でした!

というわけでいよいよ観てきました。「この世界の片隅に」最近仕事がまあ忙しく、中々見に行けない日々が続いてストレスが溜まっていたので、今日の休日出勤明けにえいやとテアトル新宿に向かい、えいやと立ち見席のチケットを手にしてえいやっと観てきました。

まあ、正直私は原作漫画の、というか作者のこうの史代さんの大ファンであり、クラウドファンディングにもきっちり参加してるためはっきりと贔屓でありハードルも上がりきってる状態であり正直けなすはずのない人間なわけで、今回はそういう人の感想としてとらえていただきたいと思います。

 

感想としては、とりあえず泣きました。

まあ、泣きますよね普通に。というかとりあえず私は漫画読んだときも泣いた記憶があるので、その原作で普通に映画を作られてそれを見たら泣くわけですよ普通に。

この映画のストーリーとしては、昭和のはじめに広島に生まれた少女すずさんが健やかに成長し、ほぼ会ったことのない青年との縁談を受け入れて結婚し、広島の隣、呉で生活しはじめたところで太平洋戦争戦争に突入。日々悪化する戦況、過酷な環境に翻弄され、色々な悲劇が起こり、そこに立ち向かっていく。というような話です。

しかし、この映画が泣けるのは運命に翻弄されるすずさんへの同情、戦争の悲惨さ、というような要素だけではなく、この時代でも生き抜こうとする人々。明るさを失わず生きる人々からも根こそぎ感情を奪い去っていく戦争、その中で翻弄されるすずさんの慟哭、突き上げる負の感情、しかしそれを溶かす周りの人々との関わり。いやがおうでもあからさまになる人間臭さや生命力に触れられたと思える瞬間があるからジンと来るのです。あくまですずさんからの視点を中心とし、安易に戦場や死を描かないことによって「あくまでこの人達は私達と同じ、普通に生活している人々なんだ」という感覚を感じさせてくれる。そしてそれを暴力的に蹂躙する戦争。本当にきっちりと「戦争やだー!」と感じます。

泣いた。月並みですが、素晴らしい作品でした。いや~。刺さった。 凄かったほんとに。というわけで凄かった、印象に残ったトピックをいくつかあげてお勧めしていきたいと思います。

見やすい、親しみやすい

太平洋戦争を描いた映画、というだけで割とハードルが高く感じるし、沢山人が死にそうだし、暗そうだというイメージがあると思います(偏見)しかし、この映画は非常に入っていきやすい。

絵柄の親しみやすさ、可愛らしさ。そして、手法として主人公のすずさんの生活を丹念を描いていくことにより日本人にとっての太平洋戦争を描き出す、という方法を取っているため、優しいエピソードが丹念に描かれます。海沿いの街に生まれたすずさんが子供時代、泥だらけになりながら兄弟と一緒に親戚の家へ干潮時の海を渡っていくくだり。絵の好きなすずさんがクラスの男の子の絵を代わりに描いて花を贈られるくだり。そして夫婦の出会いのきっかけとなるエピソードなど、どこか夢のような、微笑ましいような少し甘酸っぱいようなお話を丁寧に描いているため、昭和初期の日本がどこか近い存在として感じます。ほんとうにこのまま終わったらジブリかほのぼの教育アニメのようなつくり。すずさんが大人になってからなかなかキツい展開になっていくわけですが、後半までクスリとするような笑い、優しいエピソードを忘れないため途中で見るのがキツくなる、ということはあまりないと思います。(キツい時間はありますが・・・。)とにかくショックムービーではなく、いわゆる戦争映画とは一線を画した作りになっているのは間違いない。サザエさんみたいな感じです。途中まで。 

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 実はわりとエロい

基本的には主人公のすずさんが子供時代から成長し、(ほぼ)会ったことのない男性のところにお嫁に行く、というストーリーなため、夫婦のふれあいの場面がわりと出てきます。嫁入り前におばあさんから初夜のやりとりについての符丁を教わったり、その夜に夫の周作さんがすずさんの顔を撫でたりする描写。すずさんが遊郭に迷い込んだときの娼婦との一時の会話。そして防空壕でのさりげない口づけ・・・。しかしなんといっても幼馴染の水原との「あの一夜」のシチュエーションのいやらしさったら!昭和初期のエロス感!現代では味わえない、秘められたエロを感じさせてくれます。そしてそれが生活の他の場面と同じトーンでねちっこく描かれているのがとてもよい。周作とすずさんも互いに時にはうけいれ、時には拒否して、とか。そういうことを繰り返して深まっていく夫婦仲。もはやセックスが描かれていないだけ。そこがことさらライトアップされずに生活と同じレベルで描かれているところにエロを感じるのです。さりげない、でもそこがいい。

   

笑える部分が多い

戦争映画ではありますが、細かく言うのであれば「ほのぼの生活もの(だけど戦時中)」というテイストなため、基本的には生活描写がふんだんに入っています。そしてそもそも天然ボケのすずさん。いろいろやらかして周囲に笑いを誘います。劇場でも笑いがおき、終盤かなりキツくなってくる場面でもクスリとするようなくだりもあり。トボけたコメディ的要素もこの映画の魅力です。

まとめると、とにかく必見!

 としかいいようのない作品なんです。他にものん。こと能年玲奈の熱演。「あまちゃん」では見れなかった暗黒を抉り出すような演技、絞り出す声に震わされるし、時々はさまれる、すずさんが描いた絵が動き出すようなファンタジックな表現、細かく描かれた戦艦、空襲の武器、爆弾の描写のリアルさ、とにかくいろんな魅力がつまった作品です。見た目地味だし、ジブリや細田守ほどの有名さはないし、上映館もさほど多くない映画ではありますが、見ればおもしろい!人間の生活がしっかりと描かれ、色んな感情があぶり出される、豊かな作品になっていると思います。

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

 
「この世界の片隅に」公式アートブック

「この世界の片隅に」公式アートブック

 
この世界の片隅に 劇場アニメ絵コンテ集

この世界の片隅に 劇場アニメ絵コンテ集

 

 興行成績は好調なようで、上映館も徐々に増えつつある「この世界の片隅に」都内ではわりと満席の状況が続いたりしていますが、まだまだ空席が目立つ館も多いと聞きます。とにかく公開が終わる前に、大画面で一度観て頂きたい。そして戦争の怖さとともに人間の強さ、豊かさを感じて頂きたい。心揺さぶられる、素晴らしい映画でした。ありがとう!片淵監督!

 

11/28追記

ここからは一度でも観たことのある人が読んで下さい

 

すずさんのラスト付近での台詞について。玉音放送を聞いたすずさんは走り出し、遂には膝をついて慟哭。今までの全てを吐き出すようなセリフを吐くことになりますが、この台詞の中身が原作漫画と映画では変わっているのです。台詞を変えたきっかけについては監督自身がインタビューでかたっていますが・・・。

webnewtype.com

 

私は元の漫画でのセリフのほうが好きです。監督の改変だと、一度脳みそを通しているというか、すずさんの心から溢れ出してしまった言葉だという印象が薄れてしまっている、どこか神の視点にすずさんが立っているように思えてしまったのです。長くなった分、パンチラインとしても少し薄まってしまっている。それが少しピンと来なかったというか、残念に思いました。

まあ、この映画作ってくれただけで感謝!なのはもちろん、なのですが。

でもこれも原作への糊代を作ってくれたと思えばありがたい話。映画で感動した方はぜひ全員原作漫画を買っていただきたい。映画見てても感動できると思います。おもしろいよ! 

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に : 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に : 中 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に : 下 (アクションコミックス)

この世界の片隅に : 下 (アクションコミックス)

 

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11月12日全国公開「この世界の片隅に」片淵監督の長い長い道程。

こうの史代原作、片渕須直監督。クラウドファンディングで資金調達されたことで話題を集めたアニメーション映画「この世界の片隅に」の公開日が11月12日に決定し、予告編も公開されました。

 

 

公式サイトはこちら。

www.konosekai.jp

そして予告編はこちら


映画『この世界の片隅に』予告編

クラウドファンディングで3,622万4,000円を集めたこの作品。ただ、長編劇場版アニメーションの制作費はおおむね数億~数十億が一般的。けして潤沢ではないこの制作費でどのような作品が作られるのか。

まだ残っているクラウドファンディングサイトで、片渕監督の思いが綴られています。

www.makuake.com

『この世界の片隅に』はこうの史代さんの珠玉作であり、たくさんの読者のみなさんにとってもたいせつな”たからもの”です。この物語を扱わせていただく以上、中途半端な結果しか得られないようなことに出来ないと心に刻んでかかっているつもりです。みなさんのご期待は絶対に裏切られてはならないものです。

と原作への思いを語り、結びの言葉としてこう綴られています。

『この世界の片隅に』という映画をご自分自身のものとして感じてくださる方がありましたら、すずさんを愛してくださる方がひとりでも多く増えるように、お力添えいただければありがたいのです。

ページ内には監督によるラフ画も掲載されています。この他にも、何度も監督自身が舞台となった広島の呉に足を運び、すずさんの生活、足取りなどを丹念に調べて映画が制作されています。その細かい経緯については

2012年8月~

1300日の記録[片渕須直] | WEBアニメスタイル

2015年4月~

「すずさんの日々とともに」株式会社MAPPA

に日記として綴られています。なんと今から4年前からコツコツと片渕監督が進めてきた映画。その道程はまるで庶民の日々を細かく、地道に綴っているこの「この世界の片隅に」そのもののようです。

   

このように地道に紡がれている「この世界の片隅に」アートブックも出るようですが、まず原作を読んでから映画を見るのも、映画を待ってから原作を読むのもアリなんじゃないでしょうか。どちらにせよ、いろいろな人達の思いが詰まった映画。是非成功して欲しい!そう思わざるを得ません。金も出したし!(下品)

「この世界の片隅に」公式アートブック

「この世界の片隅に」公式アートブック

 

  そしてこちらが原作本。とりあえずKindle版から。

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に : 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に : 中 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に : 下 (アクションコミックス)

この世界の片隅に : 下 (アクションコミックス)

 

 そして単行本。お好きな方で・・・。 

この世界の片隅に(前編) (アクションコミックス)

この世界の片隅に(前編) (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に(後編) (アクションコミックス)

この世界の片隅に(後編) (アクションコミックス)

 

 イデオロギーを前面に出すのではなく、市井の人々の暮らしを綴っていく、ことさらに悲劇にしない、という市井で描かれたこの作品。そして、だからこそ戦争の悲しさが浮かび上がってくる。名作です。 

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「シン・ゴジラ」感想。ただただ圧倒的な終末感。(ネタバレあり)

今週のお題「映画の夏」

巷で噂のシン・ゴジラ観てきました。

www.shin-godzilla.jp

色々な人が濃い感想を書いてるシン・ゴジラですが、まああまり気にせずに書いていきます。普通にネタバレするので内容を知りたくない方は要注意。

ちなみに私の「ゴジラ経験値」はかなり低めです。第一作とビオランテは見てると思いますが、他はおぼろげ。平成ガメラは好きで全部観てて、エヴァも一通り見てます。パシフィック・リムも見ました。まあ、そんな感じなのでお手柔らかに。

 

まず、いきなり衝撃を受けたのが「ゴジラが最初、オレが知ってるゴジラじゃない」っていうこと。第一形態はなんというか、邪悪なウーパールーパーみたいな外見でガサガサ地上を這い回る怪獣。

でも、個人的にはこの形態の時が一番怖かった。何がって目が。どこも見ていないような、意志を全く感じない目。説得とかそういう要素が一切効かなそうな、宇宙人のような、この世のものではない生き物。実際、形態が進化して「皆が知っているゴジラ」になっていってもこの時の印象があったので、この「得体のしれない怖さ」が最後まで持続したように思います。

 

それに見応えがあったのが会議シーン。日本にとってゴジラ登場から3つのフェーズに別れると思います(フェーズ1はゴジラの最初の日本上陸、フェーズ2は二回目の上陸、フェーズ3は立川移動後)が、フェーズが進むごとに会議自体がブラッシュアップされていくさまが心地よく描かれてました。手続き論を繰り返し、的はずれな対策を繰り返す状態から、より機能的に、現実を見据えた会議になっていく。そして最初はゴジラだけだった敵が国連も加わり、二方面での対策が必要となっていく。このへんの過程をもう少しボリューム付けて見たかったという気もしますが(実際の外交官、大使館との交渉、現地でのやりとりも見たかった。このへんは少しステロタイプに処理された印象があります)この映画の主人公である日本政府が成長していく姿は思い入れられるし、やはりグッと来るものがあります。最初は「なんだかなー、現実に起ってもこんな感じなんだろうなー」と思いながら見てましたが、結局「がんばれ!」と応援している始末。まあ、掌の上とはこのことでした。

 

そして、なんといっても「この映画は成功だ」と思わせてくれたのは、最終形態になったゴジラによってもたらされた圧倒的な終末感。誰もゴジラを倒せない。東京がほぼ無人になり、ただゴジラだけがいる。しかし誰も手を出せない。兵器は通用せず、飛行するものは撃ち落とされる。そして核兵器による東京攻撃を提案する国連軍。暗闇の都心にゴジラがただ佇んでいるさまは美しくすらありますが、「この世に本当の終末が来る」という脅威。ゴジラが本当に「恐怖の象徴」になったというだけで、「初代ゴジラに近づける」という庵野監督の意図は達成されたといえるでしょう。いや、怖かった。怖かったよー。

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あと市川実日子がとてもよかったです。とても。このシーンメガネかけてた気もするけども。 

 

気になった点がいくつかあるとするなら、最後の作戦に入るくらいから「あ、これ成功するやつだな」という空気になって最後までいってしまったので、ここらへんでなんか「全て覆って終わるんじゃないか」という危機感を作って欲しかったというのと、博士の謎が解けた後の効果がわりとあっさり処理されてたのでもう少しインパクト欲しかった、そして映画序盤か後半くらいで、一度ショッキングな「一般市民の死」をクローズアップしても良かったかな、と。基本的に会議と戦闘の繰り返しなので、生活感が見る側に薄れていく時間帯がある気がします。

   

 と、気になるところはあったにせよ、面白い傑作だったのは確か。そして、この映画についての記事もぼちぼちネットで出始めています。

www.oricon.co.jp

実際この記事では

「本作は、複数の会社が出資しあってリスクを分散する製作委員会方式をとらずに、東宝が単独で制作。複数のスポンサーの意向をとりまとめる必要がない環境は、作家性の強い庵野にとって好条件であったことは想像に難くない。事実、本作の撮影前に「この映画は珍しく東宝がお金を出してくれました。それを無駄なく使いたいと思います。ギリギリまでがんばります!」とうれしそうに切り出した庵野は、スタッフに対して「何よりもおもしろい日本映画を目指してやっていきたいと思います!」と力強く宣言した。

 「複数のスポンサーの意向をとりまとめる必要がない」とあるように、他の日本映画が多かれ少なかれこの部分に苦しんでいることが暗に表現されてます。実際この「東宝がお金を出してくれた」というところがこの「庵野秀明テイスト100%」と言うべき作品ができた要因の一つではありそうです。 

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

 
別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.4 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

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飯伏幸太 大怪獣モノ 激闘の日々 [DVD]

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 まあ、エヴァもいいですが、庵野監督においてはこれでしばらく「何を撮っても許される」状態になっていくと思うので、ガンガン面白いのを作って欲しい。エヴァはまあ、死ぬ前に完結編が見れればいいです!

2016/9/1画像追加。どうしても胸あるように描いてしまう。あと肩幅の不安定さよ。

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今週末雑記。ガンバレ☆プロレス王子、シン・ゴジラ、デリシャカス東京女子プロレス

7月30日、ガンバレ☆プロレス王子大会

  この日はなんといっても大家健VS藤田ミノルの一騎打ち。

去年の王子で藤田ミノルが大家健と組み、炎上軍に勝利した後のマイクで自らの離婚を告白、大家との対決を表明してからもう一年、いよいよ二人の一騎打ちが実現しました。「トモダチ軍」を結成していた藤田ミノルですが、前回の興行で解散状態。一人になった藤田が大家への決着戦を要求したことで実現したこの一騎打ち。それぞれの入場曲でリングイン、対峙する時点でちょっと空気が変わったように見えました。

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試合はまず互いに睨み合いからスタートし、ロックアップ。これが力のこもったロックアップで、互いに押し合いが2分ほど。互いの力を確かめ合い、会話するようなロックアップ。ここからまずエモいというか、総決算を感じさせるような闘い。そこからは藤田ミノルのペース。場外戦で大家の額を叩き割り、逆襲されて藤田も流血。スピアー狙いの大家をヒザで迎撃、SAYONARA(ツームストンパイルドライバー)、首四の字などで畳み掛けるも大家は返し、殴り合いに。互いに殴りあい、倒れながらも立ち上がった大家がドラゴンスープレックス連発からの炎のスピアーで3カウント!

とにかく際立ったのが藤田ミノルの上手さ、藤田と大家健との相性の良さでした。ラフさ、ズルさで試合を組み立てていく藤田、そこに乗せられつつも気合で一点突破する大家。二人の異なる個性が噛み合って観客に伝わるプロレスになっていく。その名勝負を見せてくれた。そしてやはり、一年間の溜めがあり、互いの気持ちをぶつけ続けた総決算だからこそのこの試合でした。いや、ぐっときました。

そして試合後のマイクでも。(DDTプロレス公式サイトより)

「健さん・・・。今までいろいろ健さんには同じ目に遭ってもらおうと思って、プロレスで地獄のような目に遭ってもらおうと思って、1年間やってきた。本気で!でも、それは叶わなかった・・・。」

「俺が、異物としてガンバレ☆プロレスに入り込んで、ガンバレ☆プロレスの中で毒を蔓延させてやろうと思ったら・・・。ガンバレ☆プロレスって意外と抵抗力が強いんだな。」

「排除されたのは俺のほうだ。おめーずっと言ってたよな!プロレスで俺を救ってくれるって。そんなことさせてたまるかって、ずっと思ってた。」

 

「でもな、俺はずっと前から救われていたんだ、プロレスに! ガンバレ☆プロレスに! 大家健に! 俺は救われてきてたんだよ、ずっと。とっくの昔によ」

そして大家への感謝を表明し、抱き合う二人。ハッピーエンドで迎えた大家と藤田のストーリー。しかし後楽園ホール大会前に決着してしまったことで、今後はどうするのか。後楽園ホールに向けての隠し玉はあるのか、という不安も出てきました。集会時にシバター乱入してましたが、それで後楽園を埋められるのか。最後も「後楽園、埋めるぞー」で締めくくったこの興行。極上の最終回でありつつ、未来を見据えた興行でした。まだまだガンバレ☆プロレスは続く・・・。

   

 

7月31日「シン・ゴジラ」

 そして次の日の朝、新宿でシン・ゴジラ鑑賞。なぜ新宿で見たかというと、IMAXだったから。その甲斐あってか、かなりの大迫力音響で鑑賞できました。

感想としてはシンプルに面白かった!「人類がいかにゴジラを倒すか」というシンプルなストーリーながら、そこにつぎ込まれた情報量の多さにただただ圧倒され、そして爆破シーン、ゴジラの破壊シーンの迫力に圧倒されました。

まだ公開して間もないのでストーリーには触れませんが、「庵野秀明らしさ」の塊でありながら、しっかりメジャーなエンターテイメントになっている映画でした。面白かった。 

映画秘宝 2016年 09 月号 [雑誌]

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 怪獣映画というよりは災害映画。災害にどう対処するのか、という人々の闘いの映画でした。会議エンターテイメント、とも言うべきか。政治家とか官僚って大変そうだな~、と思わせる作品でした。

 

 

7月31日「デリシャカス2016・東京女子プロレスDAY」

そして週末の締めくくりはデリシャカス2016。このイベントはTBSのグルメイベント(うろおぼえ)ですが、DDTグループの団体が日替わりで試合をしていました。DNA、BASARA、本隊、そして週末は東京女子プロレス。

 

試合自体は4試合。ざっくりと思ったことを描いていくと

・筋肉アイドル才木玲佳は欠場で残念。しかしコスチューム姿で欠場挨拶したり、ずっとリングサイドで試合見てたり、セコンド業務手伝ったりと頑張っていました。次は試合を見たいところです。焦らず治してください!

・やはりセミ、メインくらいは安定感があって安心して観ていられますが、前半の試合のレベルの底上げが課題のような気がします。特に前半は、当たりの弱さが気になる場面が幾つかあったような。

・KANNAがちょっと痩せていて少し不安に。最近目立たないKANNAですが、ここは意地を見せてまたトップを狙って欲しいところです。

全体的には盛り上がり、「いきなりステーキ」の一万円券が商品になることもあって選手たちのそこに向けての頑張り、ストーリー作りもあり、パッケージとしてはバラエティの富んだ面白さを発揮していました。他の女子団体と絡まない方針の東京女子ですが、そろそろ上の選手は外に出るか、DDT本戦で男子選手とバンバン闘うなどしてもいいのでは?と思いました。ここらで大社長に逆らって自己主張する選手が出てきたり、他団体を見始める選手が出てきたら東京女子も次のステージに行けるような気がします。東京女子自体がそろそろ殻を破ってもいい時期なんじゃないか。そんなことを感じた赤坂サカスでした。 

東京女子プロレス【爆音セレナーデ】 [DVD]

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映画『バケモノの子』を見て、「細田守は宮﨑駿だ!」と確信した瞬間について。

『バケモノの子』を見ました。『時かけ』のオールナイト上映(細田守版と原田知世版の上映&デジモン劇場版上映&細田守トークショー、という組み合わせだったと記憶してます)を見に行くくらいのファンである私ではありますが、今回の感想としては「普通におもしろいけど、なんかスルっと見れてしまった」という感じでした。夏だけにところてん感覚というか。 

 今回特にそうですが、主人公にとっての敵と味方をくっきりと分け、敵の事情や心情にはあまり踏み込まない。掘り下げない。人の闇についても絵的な見せ方に終始していた印象があります。個人的には細田守ってあまりそういう部分に興味が無いというか、深く掘らずに目に見えるディティールを細かくなぞっていきたいタイプなんじゃないかなと思ってます。(ワンピースの劇場版見てないんでそこらへんあんまり言い切れないですが)今回特に劇場作品ということもあり、全体的に分かりやすくすることに腐心しているようにも見えました。

 

ただ、一箇所個人的に「おっ」と思った部分がありました。それは映画冒頭、主人公の九太が夜の渋谷をさまようさまが街の各所に設置された防犯カメラで映されるシーン。ここでは両親がと別れて天涯孤独になり、誰も味方が居ない、冷たい街中をさまよう九太の孤独さ、世間の冷たさを表すためのシーンではあるのですが、結構執拗に監視カメラでの映像が挟み込まれます。そこで私がふと思い出したのは「KAMINOGE」vol25掲載の鈴木敏夫インタビュー。

   

映画「夢と狂気の王国」公開時に行われたこのインタビュー。格闘技雑誌らしく、鈴木敏夫のプロレス話(フレッド・ブラッシーが凄かった、とか)から入るのですが、自然と話題は宮崎監督とのプロデューサーとしての付き合い、という話に。そこで「風立ちぬ」の話から段々「宮崎監督のエロス」的な話に。

鈴木:例えば『天空の城ラピュタ』でね、ラピュタの近くまで行って、シータとパズーが狭いところで2人で顔を覗くシーンがあるじゃないですか?なんであそこあんなに狭いのかって(笑)。それは「くっつけよう」っていうだけでしょ。そのへんのカジノに行ってそういうことやるってのは「いかがなものか?」と思うでしょ。

ー:常に抱き合いますよね。

鈴木:『ハウルの動く城』なんかもね(中略)いろんな作品でそういうことがあるんですけれど、「まいったな」と思ったのは『千と千尋の神隠し』。要するに一家でクルマを運転してたら門のところに来るじゃないですか。それで不思議の街に入り込むでしょ。そしたらお父さんとお母さんを豚にしといてね、彼女が街をウロウロするでしょ。あのときのカメラ位置。「俯瞰」なんですよ。彼女の目線では自分がどこにいるかわからないから、焦ってグルグル回るわけでしょ。それを全部俯瞰で追いかけるんですよ。あれってなんですか?

ー:ストーキング的な視点ですか?

鈴木:江戸川乱歩でしょう!ボクは「こんなものを世に出していいんだろうか」って思った。だって公序良俗という観点から言ったら「いかがなものだろうな」って思いましたよ。あの目線ってそれでしょ。簡単に言うと、いたいけな娘を閉じ込めておいて、それでみんなでいびって上からカメラで撮ってるってことでしょ?だからカメラのポジションって怖いんですよ、その人の本質が出ちゃうから。

ー:見たいものをどう見るか、という。

鈴木:そう。凄いんですよね。あと『耳をすませば』のときもまいったですね。(後略)

   

まさにここで語られる『千と千尋の神隠し』での「俯瞰の視点」この九太が渋谷の街を走り、それを防犯カメラが捉えるシーンが私の中で重なったのです。宮﨑駿にとっての千尋が細田守にとっての九太なのかと。ハヤオにとっての少女が細田守にとっての少年なのかと。宮﨑駿がロリ好きで細田守ショタ好(以下略)

まあ、あくまで個人的にですが、「つながった!」みたいな気持ちよさがあったのもまた事実。 『サマーウオーズ』のカズマ、『おおかみこども』のオオカミ少年など、健全な大作映画の中に時折「濃い部分」を見せる細田監督ですが、無意識にこういう部分が漏れだしていると考えるとほっこりするものがあります。鈴木敏夫が見たら「こんなものを世に出していいんだろうか」と言うのだろうか。興味があるので誰か鈴木敏夫に「バケモノの子」を見せて感想を聞いて欲しい、そしてその感想をこっそりと教えて欲しいもんです。 

KAMINOGE vol.25

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  • 東邦出版
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 「KAMINOGE」の鈴木敏夫インタビュー、この他にも面白い部分満載なのでジブリ好きの人は読んだほうがいいと思います。鈴木敏夫のアクの部分がしっかり載ってて読み応えありました。「風立ちぬ」の見方変わるんじゃないでしょうか。 

 

一時期ジブリで宮崎監督の後継者になると目されていた細田監督。今は大分離れたところを歩いているように見えますが、こうして宮崎監督との共通点が浮かんだりすると、見てる側としてはワクワクするものがあります。映画の公開規模としてはどんどん大きくなり、メジャー街道を突き進んでいる細田監督ですが、作品としては薄味になっているのもまた事実。自分の濃い部分を見つめなおして凄いのをまたドカンとぶっ放して欲しいものです。期待してます! 

 でも一番好きなのやっぱりこれ。

   

クラウドファンディング目的達成!こうの史代「この世界の片隅に」アニメ化プロジェクトに出資しました。

2日続けてクラウドファウンディング話になりますが、アニメ監督の片渕須直氏が行っているこうの史代原作漫画「この世界の片隅に」の映画化プロジェクトに投資しました。

■ このクラウドファンディングの主旨
劇場用アニメ映画『この世界の片隅に』の公開実現に向けて応援してくださる「制作支援メンバー」を募集しています。この映画は、準備作業に4年を費やし、シナリオ・絵コンテが完成したところまで辿り着きました。集まった資金は、作品をこの先のステップに進めていくためのスタッフの確保や、パイロットフィルムの制作に使わせてください。片渕須直監督が、こうの史代の愛した主人公すずさんに命を吹き込みます。
すずさんの生きた世界を一緒にスクリーンで体験しましょう。

  原作の舞台は第二次世界大戦中の広島・呉。漁師町から嫁いできた主人公、浦野すずは、戦時中で貧しいとはいえ、たくましく明るい人々に囲まれて楽しい夫婦生活を送っていました。しかし戦火は本格的にすずの周りに迫ってきて・・・。

 

日常生活の細かい描写もあり、戦争中の「普通の生活」を悲劇的に彩ることもせずにしっかりと描いている作品です。もともとはほのぼのとした短編を得意とする作者の持ち味を活かし、大きなストーリーとともに小さいあるある要素やほのぼの要素がアクセントとなっていて、上から教訓めいた主張をすることが無いからこそ、戦争の悲惨さを浮き彫りにする、でも人々は生きていく、というテーマをしっかりと浮かび上がらせています。凄い漫画です。

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

 

 こうの史代は広島県出身の漫画家で、原爆をテーマとした作品としてこの作品の他にも「夕凪の街、桜の国」を残しています。こちらは田中麗奈主演の映画にもなっており、知名度はこちらのほうが上かもしれません。原爆をめぐる3世代にわたる家族のお話。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 
夕凪の街 桜の国 [DVD]

夕凪の街 桜の国 [DVD]

 

 ただ、個人的にはこうの史代の原爆以外の漫画も好きだし、これらがあったからこそ一連の戦争ものにもつながっていると思います。

こっこさん

こっこさん

 
ぴっぴら帳 : 1 (アクションコミックス)

ぴっぴら帳 : 1 (アクションコミックス)

 

 目標額として設定されていた2000万円を達成はしましたが、クラウドファンディング自体はまだ継続中です。投資額は2000円から100万円まで。期限は6月末に設定されているので、制作支援者HPなども参考にしつつ検討してみるのもいいのではないでしょうか。

片淵監督はアリーテ姫、マイマイ新子と千年の魔法などを手がけたこだわりの監督。今回のクラウドファンディングページを見ていても、詳細な調査を行っているのがわかります。WEBアニメスタイル内の連載「1300日の記録」には、詳細なロケハン、資料集めを行う監督の姿が描かれています。

   

一般的に言う「面白い映画」になるかはわからないところもありますが、これだけの思い入れを見せられると応援したくなります。映画公開予定は2016年予定、感覚としては寄付に近い気もしますが、この映画の動画が一枚でも多くなるように、公開館数が一館でも多くなるように、少しでも多い金額が集まるように願っています。

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「プロレスキャノンボール」感想(ネタバレあり)映画よりめちゃイケより面白い「映画館で見るプロレス興業」!?

というわけでネタバレありのリアルな感想。リアルといっても一つ前のがフェイクというわけではなく、踏み込んだというか、穿った見方中心の感想です。

 

最も笑った菊池の一言

基本的には大家に爆笑しながら見ていたこの映画。そのピークになったのは、菊地毅の放った「俺は夢の中にいるのか」の一言。そりゃそうだ。仙台のとあるバーの中、大家と今成という二人のプロレスラーが全裸になってビンタの張り合いをしているのだから。「あまりにも俺の常識と外れてて、まるで夢の中にいるみたいだ」と菊池がつぶやくのも無理もない。しかし本人大真面目。この、間抜けだけど本人は真面目なゆえのギャップが笑いにつながり、それはこの映画の中で存分に発揮されていました。この「裸で張り合う」ことを提案し、事後の報告を受けて爆笑していたディーノチーム、大家が泣く度に爆笑し、最後には泣く大家を写メして爆笑していたマッスル坂井の底意地の悪さにもニヤリとさせられました。いや~、笑った。あの破壊力は凄かった。ほんとうに「ほろ苦いけど笑える作品」に仕上がっていたと思います。

東北復興」というテーマの唐突さ

ただ、ラストの東北で興行をする、という展開にはあまり必然性を感じなかったかな、というのが本当のところ。一日目の試合が基本的には関東圏で行われ、二日目の試合は東北。ここで実際に客と触れ合う試合をしたのはディーノ組と大社長組。そして、作中で実際に「プロレスに飢えている観客」と触れ合い、感じたのはディーノ組でした。ゆえに、興業を実際にはっきりと提案するのは飯伏、HARASHIMA、ディーノであるべきだし、あそこでディーノが周りを動かす形で話が進めばもっと納得感があったかと思うのですが、実際提案したのは鈴木みのるでした。プレビューを見て全員が感動する、みたいな描写もなかったので、ちょっと唐突に見えたのが正直なところ。パワーバランス的に一番上の鈴木みのると高木三四郎が話を進めていったのも予定調和感のある部分でした。下から上を突き動かして欲しかった。

まあ、結局最後には「プロレスっていいよな~」とか思ってしまうちょろい客でもあるし、それも画の力、特にバラモン兄弟に水をかけられ号泣していた子が飯伏を一生懸命応援する姿をはじめ、ニコニコしながら試合を見守る観客たち、メインイベントの試合中に売店で売り子しながら立ち上がって試合を見てしまうサスケ、夢中で試合を見る選手たち、号泣する大家、会場が一体となるという表現がありますが会場の全員がリングに夢中になっている光景にはぐっとくるものがありました。

映画になりきれなかった「プロレスキャノンボール2014」

bylines.news.yahoo.co.jp

てれびのスキマさんが言及されているように、マッスル坂井はこの映画を作るのに「めちゃイケ」を参考にしたと話しています。正直今のめちゃイケと比べれば100倍くらいは面白いと思いますが、故に映画というよりはTV的なつくりになっています。

特にカットを細かく割っていき、ナレーションベースで事件を並べていくあたりバラエティ的というか。そのおかげでテンポよく見れて面白かったんですが、ただそこで少し不満だったのが大家と今成の心情もナレーションで処理してしまったこと。そこはナレーションがなくても徐々に伝わってくる形にして欲しかった。撮影方法的に難しいかもしれませんが、ただ事後に掘り下げた映像を流すとか、DDTの初期~ユニオン~ガンプロの映像を入れていくという手法もとれたはず。そこが残念なところでした。

 

というように、この映画について「映画になりきれなかった」部分があるとしたら、それは実質的な主人公、大家の掘り下げの不足なのだと思います。

今成と二人でキャノンボールに参加する決意を固めた経緯、東北に残り宣伝活動をした光景、もっと映像で表してこっちの心に植えつけて欲しかった。確かに思いが先走って号泣する大家の姿で伝わるものはありますが、やはり説明されずに画で見せてからの号泣でこそぐっとくるもの。その部分をナレーションにした時点で(予算的、時間的限界もあったかと思いますが)この作品は映画的ではなく、TV的、マッスル的手法を選択したのだと感じました。

帰ってきたマッスル

なんだかんだ言って結局楽しかった「プロレスキャノンボール」やはり「マッスル」を思い出しました。コメディタッチで始まり、そして中盤に大転換。ラストは泣かせるドラマに仕立てるというこの構成。さすがの職人芸。そしてやっぱり「プロレスはいいもんだ」と思わせるつくり。素晴らしかった。満足しました!

KAMINOGE―世の中とプロレスするひろば〈vol.39〉話のできる男・飯伏幸太

KAMINOGE―世の中とプロレスするひろば〈vol.39〉話のできる男・飯伏幸太

 

 結論としては

「映画館でいいプロレスを見せてもらいました」

 ぜひTVでも放送して、全国のお茶の間のドギモを抜いてほしい。ドギモを抜いてから「プロレスっていいね~」と思って欲しい。その力のある作品だと思いました。

 

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「プロレスキャノンボール2014」見たので素直な感想(ネタバレなし)プロレスって何?という問いに答えた傑作!

見切り品の缶詰買って食べたら身体の上から下から大洪水、これなーんだ?

「食あたり~」

というわけでしばらく体調崩して臥せってましたがようやく復活したので、早速「プロレスキャノンボール2014」の感想を描きたいと思います。

「プロレスキャノンボール2014」とは、「テレクラキャノンボール」をモチーフとしたプロレス映画です。DDTプロレスリングが制作し、監督はDDTプロレスリングのマッスル坂井。プロレス団体が制作したプロレス映画ということで一部注目の作品です。


劇場版プロレスキャノンボール2014 予告編第1弾 - YouTube

話は色々聞いてた「プロレスキャノンボール2014」、いつか見ないとと思いつつ不規則な上映期間、少ない上映回数などもありなかなか見れませんでしたが、先日ようやく見れそうなところを見つけたので

そして急遽池袋に向かい

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見ました!

 

 ちなみに煽り文句はこんな感じ。

プロレスラーは強くて、楽しくて、ちょっぴりさみしい!!

DDTを中心に集められたプロレスラー13名が、4チームに分かれ、自慢のマイカーでゴール(東北)をめざしながら、RUNステージと WRESTLEステージで得点を競っていく様子を自由に伝えるドキュメンタリー。スマホ片手にSNSを駆使し、プロレスラーのみならず、アイドルや一般人 までをも巻き込みながら、迫ってもこない敵を無理やり引きずり出し、次々と戦いに挑んでいく。

総監督を務めるのは選手としても活躍していたマッスル坂井。かつて、カンパニー松尾監督の作品「劇場版テレクラキャノンボール」に感銘を受け、その オマージュとしてDVD「プロレスキャノンボール2009」を制作している。あれから5年の時を経て、遂に実現することとなった映画製作となる本作品で は、身近なようで身近じゃない「プロレス」を生業とするものたちが、全力で戦い、悩み、そして遊ぶ様子を描き出す。

出場チーム

【世界一性格の悪いクレージー大社長チーム】 高木三四郎、鈴木みのる、葛西純、マッスル坂井、ディレクター:福田亮平

【DDTスペシャルチーム】 HARASHIMA、飯伏幸太、男色ディーノ、中澤マイケル、ディレクター:佐古俊介
【酒呑童子チーム】 KUDO、坂口征夫、マサ高梨、ディレクター:尾崎孔一
【ガンバレ☆プロレスチーム】 大家健、ディレクター兼任:今成夢人

 感想としてはやはり面白かったです。普段DDTを見ている自分としては、飯伏の黒い一面やディーノの廻し役としてのふるまい、話の長い鈴木みのる、悪意を振りまくいつものマッスル坂井、酒を呑んで毒を吐くHARASHIMAなど。

各レスラーの意外な一面、予想どうりの一面、お祭り感溢れる道中はまさに「大人の遠足」感もあり、点数争いのゲーム的な一面もありました。

なによりいつでもどこでもリングが無くてもプロレスの試合をしてゴールを目指す彼ら。言い換えると、いつでもどこでもリングに変える事のできる彼らが、プロレスをしながらひたすら旅をする姿を見ると、段々とプロレスと日常の境がおかしくなってくる。

実際、「プロレスはリングでやるもの」と社会は思っていますが、プロレスラーがいざ対峙すれば、こんなにしっかりとプロレス的空間を作り出すことが出来、それは街のケンカとは確実に違う闘いでした。

   

色んな所に言って、色んな(元)レスラーと戦っているうちに、その彼らとの関係性、それぞれの人生がしっかりと浮かび上がってくる。ああ、これがプロレスなんだなと。

 楽しく染みる部分もある、まさに「いいプロレス興業を見た」というような映画でした。

 

なかなか上映館も少なく、ゲリラ的な上映が続いてますが、少しでもプロレス好きだったり、好きなことがあったりした人は見て欲しい。プロレスの良さが詰まった、楽しい映画でした。

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春日太一「あかんやつら~東映京都撮影所血風録~」を読んで。

今更感ちょっとありますが、時代劇研究家の春日太一さんの著書、「あかんやつら~東映京都撮影所血風録~」を読みました。

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

 

 東映社長から社員、監督、俳優、職人、とにかくクセが凄い人たちが我をぶつけあう歴史。時代の流れに乗って作る映画のスタイルを次々と変えていき、徐々に時代遅れになっていく悲哀、これはまさにプロレス的要素に満ちた物語と言えるのではないか。東映が時代劇から任侠映画、ヤクザ抗争モノ、エロ、カラテ映画と時代に合わせて次々と作風を変えていく様はまさに猪木が新日本プロレスを立ち上げ、ストロングスタイルから日本人抗争、大量離脱、マシン軍団、海賊男、UWF、格闘技路線とスタイルを変えてきた新日本プロレスとも重なる。そしてその登場人物は

「夜の帝王」マキノ光雄

「鬼」岡田茂

鉄腕アトム結束信二

他にも深作 欣二、千葉真一菅原文太等、キャラの立ちまくった登場人物達がそれぞれの思惑、それぞれの方法で映画を追求し、対立し、和解していくさまが撮影所を舞台にして描かれている、これは大河ドラマだしキャラクタープロレスでもある。レスラーのハッタリを効かせたエピソードより「濃い」エピソードが次々と出てくる、まさに読み応えのある本でした。

 

ヤクザとの関わりまで赤裸々に描かれたこの本、コクのある一冊でした。素晴らしい。

 

ただ、現在の東映撮影所については少し哀しくなる現状がある。棚橋を中心に暗黒期を乗り越えた新日本プロレスのように、ここを乗り切り、新たな希望を見出してほしいものだ、と最後締めておきます、はい。

天才 勝新太郎 (文春新書)

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仲代達矢が語る 日本映画黄金時代 (PHP新書)

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仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル (新潮新書)

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時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち (集英社新書)

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 まだまだ埋蔵量のありそうな春日太一。時代劇以外の本もどこかで読んで見たいと思ってます。

「かぐや姫の物語」見てきました。日本アニメーションの到達点、究極のひとつがここにある。

近所のシネコンで見てきました。かぐや姫。

良かった。全然失敗作じゃない。素晴らしかった。素晴らしかったので思わずビジュアルガイド買ってしまいました。これも良かった。美しい世界・・・。 

かぐや姫の物語 ビジュアルガイド (アニメ関係単行本)
 

 面白かった、とかハラハラした、とかより、しみじみ良かった。豊かな映画的体験をさせてもらった、という印象でした。

 

 

陳腐な表現ですが、上手い絵が沢山動いて贅沢なアニメーション体験をさせてもらった、という感じです。いわゆる海外アニメや芸術作品としてのアニメーションに近い表現が前編貫かれていました。その中で特に凄いと感じたアニメーションとしては

  • 竹が輝いてにょきっと生えてくる描写
  • かぐや姫が小さい人形から赤ちゃんにむくむく成長するくだり
  • 草花が生え、虫が飛び、鳥や動物が跳ねまわる自然描写
  • 人が溢れ、牛車が行き交う喧騒

 特に、かぐや姫が赤ちゃん時代の動きが凄い。

アニメのキャラクターを動かす描き方、というのは、特に日本ではある程度方法が確立していて、ある程度その型にハマる動きしかしないものです。(例えば顎の線が見える角度から見えない角度に顔を上げるとか、キャラクターデザインの輪郭線が崩れがちな動きは避けられがちだとか。)しかし、この作品はそこにとどまらない。画面に出てくるものが全て動くんじゃないか。予想もできないアニメーションをするんじゃないか、という期待をせざるをえなくなってくるのです。


かぐや姫の物語 予告

かぐや姫は赤ちゃんなのでごろごろ転がったり、上むいたり下むいたりムチャな姿勢取ったりを連続的に繰り返すんですが、それをいちいちきちんと描いている。そのおかげでTVや今までのジブリアニメとも違うアニメーションになっていると感じました。不定形なものが絵で描かれて動いている凄さ、というべきか。中々伝わりづらい凄さなんですが、実際に見たらその凄さが分かるはず。アニメとは何か?という高畑監督からの根源的な問いかけが個々にあるように思います。

 

とにかくアニメの基本である絵が動いて、そこに命が溢れる喜びを感じさせる作品でした。この作品を作れる、作る環境を維持できるスタジオジブリはやっぱり凄い。なんといってもこの作品、

制作8年、50億・・・。

それだけのことはある。アニメって凄い、と思わせてくれる作品でした。

さすが高畑勲監督。そして高畑監督といえば赤毛のアン。ザッツ名作です。マシュウ!マシュウ・・。原点はやっぱりこれ?捨丸と再開した後に森を飛び回るシーンが出た時には「ああ、アンでもこういうのあった!」と思いました。あれも凄かった。

高畑演出だけに似てるシーンもあるし、姫も性格がちょっとアンに近いかもしれません。時代に合わずに奔放。ただ、アンと違い、かぐや姫は悲劇に結びつくわけですが、そこがこの作品の真骨頂。「姫が犯した罪と罰」というコピーに通じていきます。人間としての喜びを徐々に得ていく姫、しかし目覚めては行けない感情に目覚めてしまう。悲しい結末だからこそ際立つ一瞬の煌き。同じようなシーンではありますが、アンとかぐや姫では全く違う意味があるシーンとして描かれていました。それが歳を取り、様々な経験をしてきた高畑監督の変化そのものを表していたのかもしれません。 

赤毛のアン DVDメモリアルボックス (再プレス)

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赤毛のアン Blu-ray メモリアルボックス

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  • 発売日: 2014/03/26
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 それにしても、つくづく男ってバカだな~、っていう感じでした。

竹取翁も今だと毒親とか言われるんだろうか。おそらくあの時代の親としてはスタンダードな行動だったと思うんですが、ことごとく姫と食い違う行動が滑稽でもあり哀しくもあり。愛は有るゆえに子にとっては余計に厄介なところもあるんでしょう。

 

声ですが、伊集院光は途中で気づきました。ハマってました。面白かった。

あと、夏ぱっぱの安定感!

志の輔師匠は気付かなかった。

声優は軒並み成功なんじゃないでしょうか。違和感も特に感じなかったし。

翁は感情表現とかが長門裕之っぽかった。かわいいじいさんでした。

 

だらだら感想書いてますが・・・・。 

かぐや姫の物語 [Blu-ray]

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 DVD買って、ずっと流しておきたい。

それで時々気になったとこじっくり見たりしたい。

そんな映画でした。

2016/8/31追記

ブルーレイ購入報告。

何が凄いって、同時発売の

「高畑勲、かぐや姫の物語をつくる」というドキュメンタリー番組。

とにかく作品を作らない、作り始めても遅れまくる高畑監督をなだめ、すかし、向き合って作品を作らせる西村プロデューサー。「山田くん」を作ったことでジブリをボロボロにしてしまい、作品が作れなくなっていた高畑監督がどのようにかぐや姫を作ったのか。壮大なドキュメンタリーとなっています。

いやー、面白い。これを見るだけでもこのDVD買う価値有りです。それにしてもNHKでやってた宮崎駿、吾郎のドキュメンタリーといい、スタジオジブリってなんでこんなに面白いのか。やはり本人たちが一番面白い。必見です。 

高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~ [Blu-ray]

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『夢と狂気の王国』

見てきました「夢と狂気の王国

風立ちぬ」製作中のスタジオジブリドキュメンタリー、というか宮崎駿観察日記というか、そういうものでした。

監督はスタジオジブリにただ密着。ひたすら密着。

宮崎駿の隣にいた制作進行の女子がかわいらしかったり、主演声優が庵野秀明に決まった時に周りのスタッフが凍ってたり、宮崎駿がミニチュアのゼロ戦を手でブーンって飛ばして楽しそうに遊んでたり、宮崎駿反原発を叫んでみたり、宮崎駿が高畑監督をクサしてみたり、宮崎吾郎が難しい顔をしてみたり、鈴木敏夫が頭かかえてみたり、とにかくいろんな宮崎駿とその周辺の表情を堪能できる映画でした。

 

個人的には、やはり宮崎駿庵野秀明が会話してるだけでテンション上がるものがあります。そのために声優に起用したんじゃないか、っていうくらいに庵野秀明といる宮崎駿は楽しそうでした。

鈴木敏夫も出てきますが、こちらはあんまり意外な一面は無かったです。もっとブラックな面も見たかったなー。

 

とにかくスタジオジブリを眺めて楽しむ。そういう映画でした。

くっきりとテーマを設定して何かを炙り出すような映画ではなく、そういうのが好きな人は

 これを見るといいと思います。

NHK傑作ドキュメンタリー。宮崎駿鈴木敏夫も、この番組に出てくる姿は大分人間臭く、まあ正直ヤなジジイというか。でもそこがいいのです。仕事のために大人がギスギス、ピリピリしてるところがこの手のドキュメンタリーの魅力だと私は思います。そこから炙りでてくる人間臭さがなんとも酒が進むというか、コクがあるんです。

 

この映画はあまりそういうところを描かない。ずーっと社会見学してるみたいな感じです。これはこれでほのぼのしてて好きです。ちょっと眠くなりますが。でも映画見てる途中に結構大きめの地震があったんで飛び起きました。

宮崎駿に萌えたい、という方には文句なくお勧めです。