今週のお題「読書の夏」
芥川賞でおなじみのピース又吉「火花」を読みました。
ストーリーとしては、Amazonによると。
売れない芸人徳永は、師として仰ぐべき先輩神谷に出会った。そのお笑い哲学に心酔しつつ別の道を歩む徳永。二人の運命は。
となっていて、まあ150ページくらいの小説なのであとは買って読めということになるでしょう。実際すぐに読み終わるくらい読みやすい小説ですし(個人的には純文学調の文体に慣れるのに少し時間がかかりましたが、読み出したらすすっと読めました)ストーリーが入り組んでいるという事もなく、本当に頭にすっと入ってくる感じでした。
ただ、「お笑い芸人」という職業の話なので、なんとなくそのルールをつかんでいないとピンと来ないかもしれません。最近では芸人がTVで自分たちの社会の話をするのは割りと定番になっているので、色々情報は出回っていますが、基本的なところでは
- 芸人の世界では1日でも早くその世界に入った人が年齢関係なく先輩。一緒に飲みに行った時には先輩が奢るのが基本。売れているかどうかは関係ない。
- 若手のネタ合わせは夜の公園などが多い。人目につかず、少し声を出せるため
- 基本的には若手はバイト生活。舞台などのギャラは数千円単位
というようなところを押さえておけばいいかと思います。一応作中で説明されているのでそこまでピンと来ないことはないでしょうが念のため。
ストーリーとしては、花火大会の営業で出会った神谷に弟子入りした徳永(俗に言う弟子入りとは大分違い、精神的つながりのようなものですが)が、神谷とのやりとり、日々を通じて芸人としての自分を考えていく。そのうち徐々に売れていく徳永に比べ、神谷は売れず、借金もかさみ、2人の関係も変化していく、そのさまを徳永の一人語りをベースに語っていく、という内容です。
メインストーリーを追っていくと本当に読後感の爽やかな小説になりそうなんですが、随所に又吉のギャグが入ってきています。徳永と神谷とのやりとりはギャグで会話しているような感じですし、なんといってもネタがまるまる一本入っている。
そして小説全てを通して見たところ、全体がひとつのギャグになっている。そこがこの小説のミソなんじゃないかと思います。純文学という殻をかぶったギャグ。しかもそれが芥川賞をとってしまうというさらにパンチの利いたギャグになってしまったという。小説を全部読むと、この社会現象全体が壮大なギャグになっていることが分かります。純文学というジャンルではありますが、これは又吉のでっかいギャグだと声を大にして言いたい。春日がフィンスイミングで世界大会に出るのも、又吉が芥川賞取るのも社会を相手にした壮大なギャグなわけです。
部数も200万部を越え、着々とでっかいギャグになってるこの小説。どうしても又吉の顔が浮かんでしまいますが、もういっそそういう気持ちで読むのも面白い。どういう思考で又吉がお笑いをしているのか垣間見えるものもあります。青春ストーリーとしてもお笑い本としても面白く読みました。おすすめです。
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