男マンの日記

マンガ、落語、お笑い、プロレス、格闘技を愛するCG屋の日記。

田崎健太「真説・長州力 1951‐2015」を読んで。491ページの力作!小林邦明、保永昇男、越中詩郎、アニマル浜口、石井智宏・・・。。

今週のお題「読書の夏」

田崎健太「真説・長州力」を読みました。

 

田崎健太は『偶然完全 勝新太郎伝』、『球童 伊良部秀輝伝』などを手がけるノンフィクション作家。元小学館の編集者という経歴を持ち、緻密な取材から対象者を浮かび上がらせるスタイルで今回も長州力の人生を浮かび上がらせています。

そしてプロレスとの関わりとしては何と、あの安田忠夫の引退興行を手がけた人物なのです。色々苦労して興行を成功させたら案の定安田に逃げられるという憂き目に合っていますが、まずあの「借金王」安田に目をつけるあたり「わかってる」感あります。私はこの記述を読んだ時、そんな人が書く本なんだから面白いはずだ、と膝を打ちました。

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今回インタビューを受けているレスラー・関係者は実に多数。アニマル浜口、坂口征二、藤波辰爾、越中詩郎、石井智宏など深い繋がりを持つ盟友と言っていいレスラーたちから、キラー・カーン、谷津嘉章など明らかに長州を嫌っているレスラー。大仁田厚、宮戸優光など一瞬交わり、通り過ぎていったレスラー、そして新間寿、大塚直樹などの裏方と呼ばれる人達まで。田崎健太はそれぞれの取材対象自身の人生にも寄り道しつつ、それぞれが語る言葉から長州力を浮かび上がらせていきます。あたかも木片から彫刻刀でこつこつと像を形造るかのように。

しかし、やはり聞きたいのは長州の言葉。特にプロレスを語る長州の言葉は独特のテイストながら「なるほど」とこちらを唸らせるものがありました。

 

「みんなは”乗せる”と言うかもしれない。でも、ぼくは、”捕まえる”。(対戦)相手はいますし、それに合わせてコンディションを作って集中しますけれど、実際に闘う相手は客ですね。客を捕まえる事ができない選手、そんなに長くできないですね。」

 

「大きな石だとドボーンッて早く波が終わってしまう。ポーンと投げて静かに輪を大きくしていく、そんなような感覚ですね。それは大きな会場でも小さな会場でも関係ないんですよ。その点で猪木さんは天才でしたね。完全な(観客に対する)指揮者でした。」

 

「レスラーっていうのは1人でやっているわけじゃないんです。みんなで波を起こさないといけない。ただ、全員で波を起こして、最後に乗る奴は1人。この業界、高い波に乗れるのは1人しかいない。」

 

プロレスを語る長州の言葉は含蓄に富み、考えさせられるものがあります。あくまで真摯にプロレスに向き合い、考え続けたからこそ出る言葉でもあるでしょう。

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 私が一番一生懸命見ていた時期の長州力は、ジャパンプロレスからのUターン後。

闘魂三銃士に対して選手として、現場監督として大きな壁となって立ちふさがっていた時期でした。若手選手を恫喝し、理不尽な権力によって押さえつけるヒール的な立場。そして引退、大仁田相手に復帰、WJ設立と転落していく姿がもの哀しく映ったものでした。

しかしこの本を読むと、さすがに長州によりそった立場の本ではありますが、その裏にあるもの、長州の揺れる感情が描かれていて少しだけ長州が好きになる。

そこには決して万人に愛される人間ではなく、色々な人間を振り回し、怒鳴り、ある人には愛され、ある人には憎まれる。今は巨体を丸め、焼酎を片手にぽつぽつと話す1人のプロレスラー長州力がいるのです。

1人の人間ドキュメントとしてずっしりと胸に残る、素晴らしい本でした。ほっこりとする読後感。ほぼ500ページの本ですが一気に読めました。あまりプロレスに詳しくない人にもすすめられる本ですが、ジャパン・プロレス、WJ、噛ませ犬発言、Uインター対抗戦などの裏側も垣間見れるという、ゴシップ欲も満たしてくれるいい本。(個人的にはWJ時代、鈴木建想が奥さんとの夫婦ケンカでいつも会場入りに遅れていた、というエピソードがツボでした。)いや~、面白かった!