男マンの日記

マンガ、落語、お笑い、プロレス、格闘技を愛するCG屋の日記。

ハチミツ二郎「マイ・ウェイ」を読んで。芸人として生きるということ。

ハチミツ二郎自伝「マイ・ウエイ」は超シリアスなノンフィクション。

先日発売された、東京ダイナマイトの金髪の方でおなじみのハチミツ二郎自伝「マイ・ウエイ」を購入して読みました。

「ハチミツ二郎自伝」と銘打たれているだけに、茶化す要素などは基本的になく、ハチミツ二郎が人生のトピックスを振り返っていく一冊。基本的に本人の筆で進んでいきますが、ところどころにノンフィクション作家の田崎健太が補足的な情報を入れていく、という作りになっています。

田崎健太といえば「真説・長州力」の著者。仕事仲間、友人、本人を徹底的に取材して、解像度の高い長州力像を浮かび上がらせた一冊です。

こちら本の紹介と感想。深く長州を知るためにはぜひ読んだほうがいい一冊。491ページに渡る、本当に読み応えのある力作です。

otokoman.hatenablog.com

ハチミツ二郎と田崎健太の関係性がわかるのがこの記事。二人が飲みながら芸人という生き方について話しています。テレビではなく、ステージに立って観客を笑わせることへのこだわり、昭和のプロレスラーのような破天荒なエピソード。昔ながらの「芸人」像に固執しているようなハチミツ二郎像が浮かび上がってきます。この記事があってその先にこの自伝がある、そんな印象を受けた記事でした。

gendai.ismedia.jp

 

 

自伝の大半を占める「病」との闘い。度重なる奇跡の生還。

この本は4章&終章の5章構成となっていて、その中の2つの章が病について描かれています。この病についてはどちらも命に関わる事態。まずは2018年の急性心不全による入院。肺炎も併発し、集中治療室での酸素吸入でなんとか一命をとりとめたほど。この件については当時もしっかり報道されました。

www.oricon.co.jp

そして2020年12月には新型コロナウイルスに感染。はっきりとした症状がなかったものの、バルスオキシメーターで測ったら酸素飽和度が88%となっており即入院、そのまま8日間眠り続けたといいます。

結果なんとか回復したものの後遺症に悩まされる日々。その様子はNHKのコロナウイルス特集サイトで記事になっています。

www3.nhk.or.jp

自伝ではあるこの本ですが、実際はこの2つの病についてかなりの尺をとって描写しています。芸人としてのハチミツ二郎より病人としてのハチミツ二郎のほうが紙幅としては多いほど。しかしその描写は微に細にわたっていてかなりの臨場感。

私も先日コロナ罹患し、このたび無事社会復帰できたところですが、一歩間違えると生死を彷徨う事態になっていた、と考えると恐ろしくなります。それだけ「自分のこと」として捉えられるほどの切実さに満ちていました。妻も娘もいるハチミツ二郎にとって病で命を失う訳にはいかない。なんとしても生還する、という執念のようなものが伝わってきました。そして無事生還したかと思いきや、コロナ罹患から大きく変わっていく人生。ここは実際に読んでいただきたいですが、読んでいて思わず天を仰いでしまうほど。しかし転んでもただでは起きない。意地でもエンターテイメントにしてやる、という芸人魂が闘病記の部分にも宿っている。読んでいてそのような印象を受けました。まさに全身芸人...。

 

 

「芸人という生き方」にとり憑かれた人生。それが「マイ・ウェイ」

もちろん病以外の部分はハチミツ二郎、東京ダイナマイトの歴史について詳細に描かれてます。私自身追いかけていた時期があったので、結構知っている話もありましたがそれでも所見の噺も沢山あって面白く読みました。

NSC時代からニューロティカとの出会い、”初代”東京ダイナマイト誕生、そして今の相方・松田大輔と出会って改めて東京ダイナマイトの結成、芸能プロダクション社長時代、M-1グランプリへの思い入れ、サンドウィッチマン・伊達らとの「二郎会」、オフィス北野~オスカー~吉本興業と事務所を渡り歩いた経緯、そして立川談志、太田光、ビートたけし、長州力ら大御所との出会い。先輩・○○キッドの二人にかけられた言葉、そしてTHE MANZAI、M-1ラストイヤー、大仁田厚との電流爆破デスマッチ...。

このように波乱万丈なハチミツ二郎の芸人人生が綴られ、そこには芸人としての美学がどのように出来ていったか。特に大御所にかけられた言葉が人生を変えていったことが綴られていました。そしてオフィス北野を辞めるときの「伏せ字芸」は鮮やか。しっかり笑わせてくれました。

私の中では東京ダイナマイトはどこか「佇まいで魅せる」タイプのような印象を持っています。それはどこか芸人としての美学と心中するような儚さを感じるから。この自伝を読むと、ハチミツ二郎が笑いと同じくらい、芸人としてのカッコよさ、芸人としての生き方を大事にしていることが伝わってきます。身体も人生もボロボロになりながら、芸人=ヒーローとして、ハチミツ二郎という人生の主役として生きていく覚悟。同年代の、何者にもなれなかった自分のような人間には特にぐっとくるものがありました。

 

 

マイ・ウェイは「ハチミツ二郎によるハチミツ二郎物語」

しかし、芸人として生きることを大事にしているからこそ会社との軋轢が生まれ、人生でも大きな挫折を味わうことになることが読み進めていくとわかってきます。この本はあくまでハチミツ二郎視点で描かれていますが、人生の岐路となった場面で「実は実際に書かれてはいないけど相手側にしたら”何か”があったんじゃないか」と思わせる部分もいくつかあり、ハチミツ二郎が作り上げた物語を違う角度から見たらどうなっていたのか、とも思います。

しかしこの本はあくまでハチミツ二郎が描いたハチミツ二郎物語。自分の人生を笑いのめしながらもどこかヒロイズム、ナルシシズムも感じさせる。芸人という生き様にとり憑かれた一人の男のストーリー。どこか醒めていて、破滅型で、でもそんな自分に少し酔っている。可愛気や愛嬌はなさそうだけど、でも惹きつけられる。そんな男が見えてくる一冊でした。焼酎ロックで呑みながら、じっくり読み返そうと思います。以上です