別冊宝島編集部から先月発売された「プロレス界VS別冊宝島」面白い、という評判だったので買って読んでみたところ、これが面白い。
面白かったんだけど、色々と勧める方面に悩む本でした。ただ、このタイトルを見てピンと来た人や、人間の揉め事、プロレス界の裏側話が大好きな人は無言でこのリンクをポチっとして購入することをオススメします。
変な出し惜しみや寸止め感は一切なく、しっかりとゲスいところに突っ込んでくれているという点で、スキャンダル欲を満足させてくれる作りになっています。オススメ!
と、これで終わってもいいくらい。プロレスの試合以外の汚いところ、裏側には一切興味ない人やプロレスラーには清廉なスポーツマンでいてほしい、という人には一切オススメできない本。正直余計なことを知ってしまう可能性が高いので、今すぐこのウインドウを閉じて他のページに飛んでください。
さてどんな本か説明しようかな、と思ったんですが、どんな本なのかは目次でハッキリとわかるようになっているので、第一章の目次タイトルだけここに並べておきます。
一章 新日本の暗黒
「PRIDE」記者会見場での「出禁」事件
記憶に残る全日本プロレスの「理不尽対応」
「スキャンダル路線」を決定付けた破壊王の死
橋本真也を追い詰めた「禁断の愛」
格闘技バブルの焼け跡に残った「イノキボンバイエ訴訟」
「いますぐであれば取材できます」
「記者席がリングサイド」だった「LEGEND」
永田のファイトマネーは「1試合2300万円」
浅草「花やしき」で招待券をバラまき
路上でチケットを配る「円天」2人組
面会を拒否した「塀の中」の円天会長
東京ドーム会場内に広がった「蛍の光」
千葉県流山市の「草間宅」を直撃取材
ドーム大会の実券は「8400枚」だった
真っ赤なフォントで送られてきた草間氏の抗議メール
特大の抗議文を「圧縮掲載」処理
証券マンが語った「幻の新日本上場計画」
原田久仁信先生が語った「列伝」とその時代
梶原一騎未亡人「高森篤子さん」との電話
と、物騒なタイトルが並んでます。
最近の新日本関係の番組(棚橋の情熱大陸など)で、「新日本プロレスが格闘技に押されて人気が落ちていった時代」としてボンヤリと表現されているいわゆる「暗黒時代」について、猪木と当時の新日本プロレス首脳部とのドロドロの権力争いの姿が具体的にしっかりと描かれています。「円天」とか懐かしい・・・。
いきなり登場した草間社長やイノキ・ボンバイエなど、とにかく色んな騒動を起こしまくって転落していく新日本プロレスの姿が克明に描かれているわけです。特に、浅草花やしきでのイベントで東京ドームのタダ券を中西、吉江、棚橋が集まった客に配りまくる描写は涙なしには読めません。棚橋にいまいちハマれない自分でも、思わず「東京ドーム埋まるようになってよかったねぇ・・・。」と呟いてしまうほど。このエピソード情熱大陸に入れて欲しかった。
そして、第二章の「忘れ得ぬ人々」では、もうクセしかないプロレスラー&プロレス周辺の人々。ターザン山本、ジミー鈴木、永島のオヤジ・・・。らの本当に滑稽でダメで面白い人生についてのほっこりとするエピソードを描き、第三章の「ノア・クライシス」では一転、洒落にならない詐欺事件、そしてリング禍、権力闘争で転落していくプロレスリング・ノアの内幕について。
そして数千万を騙し取られ、2017年に亡くなった泉田純・・・。ただただ切ない、としか言いようがない。一気にずっしりとした気持ちにさせられた後は第四章「告白者たち」へ。様々なプロレス界の事件。金本浩二のファンへの暴行を目撃したファンの告発や、橋本真也の死後の橋本家事情。白石全日本の末路など、プロレス界の魑魅魍魎について描かれています。
とにかく試合以外のプロレス界スキャンダル、そしてそのスキャンダルをものにしようとする記者の奮闘が克明に描かれている本。いや読ませます。正直イヤーな気分になる事件も大分書いてありますが、安直なネットニュースみたいに良識で包んでぶん投げるのではなく、取材対象の人間にしっかりと向き合い、人間性を突き詰めていく。
その中で愛すべき部分もあり、付き合いたくないな~と思う人もいたりしますが(泉田とか)書いている記者がどこか愛着を持って描いていることがわかります。
ちなみにこの本の漫画版とも言うべき「劇画 プロレス地獄変」も絶賛発売中です。漫画のほうがよりポップかつトホホ感強めで楽しめます。
とにかく一連の「別冊宝島」シリーズの集大成とも言える一冊であり、取材というものを考えさせられる一冊になっています。そして、この本の終盤に書かれているプロレス・ノンフィクションについての提言。個人的にはとても頷けるものでした。
綺麗事だけではない、表側だけではない。ゴシップと言われるかもしれませんが、しかし裏側のリアルな報道も必要だし、またその裏側を知ることによってまたプロレスを好きになることが出来る。最近のプロレス人気の高まりの中で、表側の華やかな部分だけを団体側も強調しようとし、それ以外の部分を隠蔽しようとしているようにも感じます。それではプロレスの本当の魅力は伝わりきらないんじゃないか、と思ってしまうほど、この本の登場人物は魅力的に映っていました。
去年、新日本プロレスの選手が情熱大陸やプロフェッショナルなどに登場していましたが、そこに映る漂白されたプロレスラー像よりも、取っ払いの金、酒に群がる永島のオヤジやターザン山本、泉田らのほうに鈍く光る魅力がある。そんなことを考えさせられる本でした。ずっしり重いですが、軽く読み進められる本。人間の業が詰まった一冊でした。