先日、ライターの尾崎ムギ子さんが初の単行本を出され、こじんまりと囲む会が行われたので数回呑んだ程度の知り合いの私もしれっと紛れ込んで本を購入。それがこちらとなっております。「最強レスラー数珠つなぎ」イースト・プレスから絶賛発売中です。
シンプルに説明するとプロレスラーへのインタビュー集なんですが、この本のもとになっているのは日刊SPA!で連載されていた「最強レスラー数珠つなぎ」という企画。プロレスラーにインタビューし、「あなたが最強だと思うレスラーを挙げてください」と聞き、そのレスラーにインタビューしていく、というもの。
なんというか、「三ツ星シェフの行きつけの店」みたいなコンセプトの本といえばわかりやすいでしょうか。そもそもプロレスラーという「自分が一番強い」と思ってないとやってられないような職業の人に「最強レスラー」を聞いていく、という時点でなかなか攻めた企画だと思いますが、
ちなみに、登場レスラーは以下のようになっております(登場順)
佐藤光留
宮原健斗
ジェイク・リー
崔領二
若鷹ジェット信介
石川修司
鈴木秀樹
田中将斗
関本大介
岡林裕二
鷹木信悟
中嶋勝彦
佐山サトル
藤原敏男
藤原喜明
前田日明
そして、その後に高山善廣についてのインタビューを、垣原賢人、鈴木みのる、小橋建太、鈴木健.txt氏に行っており、最後に佐藤光留とムギ子さんの対談記事で締められています。
最強レスラーを挙げていく、というテーマのわりに、最初が佐藤光留だったせいかクセのある面々が並んでいます。特に崔領二から若鷹ジェット信介のくだりは思わず「大丈夫か?」と思わせますし、新日本プロレスの選手がいないのも何かを感じさせます。(鷹木信悟はインタビュー時点ではドラゴンゲート所属)
そして、2016年から2018年の間に行われたインタビューのため、中嶋勝彦はまだ爽やかベビーフェイスですし、崔領二は業界がザワついた三億円融資の直後。そのためにインタビュー後半はほぼ金と事業の話になっていてクッソ面白いです。
また、後ほど話しますが、この尾崎ムギ子さんがインタビュアーとしてはなかなかにクセの強い人。思いっきり自分の揺れ動く心情を乗っけてインタビューに臨んでいるので、時々ビックリするような質問をレスラーに投げかけてたりします。
例えば中嶋勝彦に「モハメド・ヨネのキン肉バスターを受けなかったのはなぜ?」と聞いてみたり(「受けたら負けちゃうじゃないですか」とあっさり返される)
プロレスを引退した若鷹ジェット信介から「結局プロレスってお金を掴めない職種なんですよ」という言葉を引き出したり、佐山サトルに対しても前田のことをガンガン聞いていく。前田にも、「UWFは佐山さんがが作ったルールで決められた?」とか聞いてるし。なんというか、物怖じしないインタビューが週プロなどでは見られない緊張感を生んでいて、読んでいてドキドキさせられました。ムギ子さんの肝座ってる感じが伝わってきます。
シンプルにプロレスラーのインタビュー集として、ここに登場しているレスラーに興味がある方、週プロ的なプロレスについてのインタビューとは違う角度から、人としてのレスラーに興味がある方は面白く読めるのではないかと思います。
しかし、この本の大きな特徴としては、ただのインタビュー集とは違い、インタビューア本人のひとり語りがインタビューの間にガンガン入ってくること。
そもそも、この「最強レスラー数珠つなぎ」が始まるきっかけとなったのは女子SPA!のこの記事でした。
この、はっきりとゲスいタイトルの記事が反感を買って炎上(まあ、こういう記事のタイトル付けるのは編集部だとは思いますし、中身はほぼ柳澤健氏とプチ鹿島氏の対談に近いものなんで軽いとばっちり感はありますが)し、そこに佐藤光留が噛み付いてきたことから第一回の「最強レスラー数珠つなぎ」に繋がっていきます。そこから様々なレスラーにインタビューしていくムギ子さんですが、徐々に自分の上手くいかない境遇や過去の失敗、コンプレックスをインタビュー前後に思い出し、苛立ち、その感情が綴られていきます。
この本は一応インタビュー集、というつくりではありますが、後半にいくにつれて尾崎ムギ子本人の一人語りが増えていきます。
リクルートに入社したけれど仕事がうまく行かずに退社、ライターを目指しながらアルバイトをして悶々としていた日々、その後も病気や恋愛に振り回され、インタビューへの苦手意識を吐露する。インタビューをする時にどういう心情で、インタビュー後に何を感じたかをとにかく赤裸々に書いていく。そこから一人の女性が懸命にあがいている姿、上手くいかない人生をプロレスに託して日々生きている姿が浮かび上がってきました。上手くいかないけれど、プロレスを見て、レスラーから力をもらって生きている。
そして、それはまさに自分だな、と思ってしまいました。尾崎ムギ子というライターの切実さ、日々生きていくことの大変さ。なぜプロレスラーに対して「強さ」を問いかけるのか。何か一つの糸で繋がったようでした。
それぞれのレスラーのインタビューをパラパラと気軽に読んでいくのもいいし、最初からじっくりと読んでいくのもいいでしょう。しかし、最初からじっくりと読んでいくと、単なるインタビュー集とは違う読後感のある、ずっしりとした何かを感じさせる本でした。そして、自分はプロレスから何をもらっているのか。何を感じているのかを改めて考えさせられる一冊でした。重く、そして面白かったです。
そして、佐藤光留のめんどくさいけどいい人っぷりがわかる一冊でもあります。とりあえず光留ファンは必読!