男マンの日記

マンガ、落語、お笑い、プロレス、格闘技を愛するCG屋の日記。

尾崎ムギ子「女の答えはリングにある」プロレスをやる人生と見る人生。それぞれの闘い。

尾崎ムギ子・女子プロレスラーインタビュー集&プロレス人生劇場発売!

4月14日発売、尾崎ムギ子「女の答えはリングにある 女子プロレスラー10人に話を聞きに行って考えた「強さ」のこと」を購入しました。

この本は基本的には女子プロレスラーのインタビュー集。全四章に分かれて10人のレスラーのインタビューが掲載されています。章立てとインタビューされているレスラーはこちら。スターダム、MERVEROUS、センダイガールズ、と3団体のレスラーがインタビューされています。

  • 第一章 「女の幸せ」とプロレスと

白川未奈 ~「女の花は短い」と言われるのがすごくイヤ~

中野たむ ~これ、たぶん女の子だったらわかってくれるんだろうな~

岩谷麻優 ~自分が一番、最強ですね

  • 第二章 どんなときだって、ずっと二人で

林下詩美 ~結果を残しても「ビッグダディ三女」。本当のわたしを見てもらえない~

ジュリア ~でも「私負けない人間じゃん」って強く思った~

朱里 ~だれよりも実力があるのは、わたし。認められない悔しさ~

  • 第三章 ロード・トゥー・かつて女を魅了した女

長与千種 ~引き込みます。世界に引き込みます~

彩羽匠 ~あの時代に近づきたいという気持ちが強い~

  • 第四章 仙台の強い女たち

DASH・チサコ ~いま全力でいかないと、いつどうなるかわからない~

橋本千紘 ~いちばん大切なのは、素直になること~

 

と4部構成になっているこの本、最初は尾崎さんと編集の黒田さんの往復書簡から始まります。なぜまた(前著「最強レスラー数珠つなぎ」以来の)プロレスラーインタビューをしないといけないのか。燃え尽きた、と渋る尾崎さんを黒田さんが一生懸命説得して連載にこぎつける。この最初の20ページを超えるこのやりとりに「なんでプロレスラーのインタビュー読みたいのにこんなのついてるんだよ」と思う人もいるでしょうが、しかし、この二人のやりとりが大事なんです。

日々の労働、生活に悩み、恋愛に悩み、失敗し、その体験を互いに交換し合いながら女子プロレスラーインタビューに向き合っていくライターと編集者。このやりとり。切実な人生の交換日記があるからこそ、インタビュー本編にも切実さが滲み出てくる。

例えばプロレスファンが名勝負を見たとき、試合に感動したとき、「プロレスから生きる勇気をもらった」とか、「プロレスがあるから明日から仕事を頑張れる」っていう言葉はSNSなどで散見します。でも具体的にそれってどういうこと?プロレスに背中を押されたり、一歩踏み出せるってどういうこと?っていうのがこの尾崎さんと黒田さんのやりとりによって可視化されているように思いました。紆余曲折あってからの、結果的に「ここにプロレスから色々もらってる人間がいるぞ!それを背負ってインタビュー行くぞ」というそのオーラ、気合がこの本全体ににじみ出ているというか。

この要素があるからこそ、レスラーへのインタビューになにか切実さが乗っかっている。レスラーからの言葉を自らに重ねていく、共感性の高いインタビューになっている。「刺さる」インタビューになってるんだと思います。

 

 

全てのきっかけになった春日萌花のマイク。でも、やるんだよ!

そして、この序章での大きなカギになっているのが2020年、ガンバレ☆プロレス後楽園ホール大会での春日萌花の言葉。THE HALFEEとして6人タッグで勝利した春日萌花が当時インディJrチャンピオンだった朱崇花に挑戦を申し込んだときのマイクでした。

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挑戦アピールを受けた

私の知ってる春日萌花にこのベルト挑戦して何が出来るの?

大して実力もないあなたに、挑戦して何が出来るんですか?

このベルトを懸けるんだったら、私の知らない春日萌花で来ないと、私ホントにあなたのことぶち殺しますよ?

その覚悟が出来てるんだったら、どうぞよろしくお願いします

それに返した春日萌花のマイク

朱崇花には私がやってきたTHE HALFEEというものが、私にとってどれだけのものか、全然伝わってなかったみたいだな・・・。

でもな! 私は・・・どんな思いでTHE HALFEEをやって来たか、あんたが知らなくても、ここにいるガンプロユニバースのみんなは、絶対認めてくれてるんだよ!

確かにあんたの知ってる春日萌花はすぐピーピー泣いて、すぐ負けて、先輩の威厳も何もないかもしんないよ、でもな!

私にはガンプロでやって来た、2年強の歴史があるんだよ!

ここにいるみんなはそれを全部見届けて、悔しい時は一緒に悔しい思いして、ベルト持った時、嬉しい時は嬉しい気持ちを共有して来てくれたんだよ!

そうやってお高くとまってればいいよ!

この人たちにはみんな伝わってるから!

ついでに言うと、その外側の、自由に言いたいやつと、あんたに一言言っといてやるよ。

出来ねぇと思ってんだろ・・・。

出来る出来ないじゃないんだよ!

勝てる勝てないじゃないんだよ!

勝つんだよ!

いいか、出来ない出来ない出来ない出来ないって...

無理だって言われること

全部!

ひっくり返して!

覆して!

歴史を新しく作るのが プロレスラーだろ!

そしてそれが、人生の醍醐味だと

私は思います!

この、大家健イズム&春日萌花の歴史が爆発したこのマイク。私も見ててちょっと泣きました。この暑いマイクがめぐりめぐって一冊の本を生むきっかけになっている。これもプロレスって素晴らしいな、と思う一つの理由になりました。

ちなみに実際に行われたタイトルマッチ観戦記はこちら。会場がピンクに染まった一日でした。熱かった!

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ちなみにガンバレ☆プロレスは5月3日後楽園ホール大会を予定してます。高岩竜一VS今成夢人、大家健VSマッスル坂井等。私は見に行くこと決定してます。必見!

otokoman.hatenablog.com

 

 

女子レスラーへのインタビューを経て、辿り着いたシングルマッチ。

そして、各選手へのインタビュー。感想を以前ツイートしたので、それをここに集めて載せておきます。

 

第一章。働く女性としてのプロレスラー。白川未奈、中野たむ両者ともアイドルからプロレスラーに転身したレスラーとしての苦悩、そして喜び。これにはもちろんプロレスラーならではのものもあるでしょうが、普通に働く女性共通の悩みもあり、中野たむインタビューではレスラー、インタビュアー、編集者全員号泣する場面もあるほど。そしてその二人を超越する岩谷麻優の天然&天才っぷり。これも凄かった。

そして第二章。ここからはより「働く女性」の物語であり、女性たちの家族の物語であり、そこからの再生の物語でもあるように思います。「ビッグダディ」三女、有名すぎるスタートだった林下詩美、イタリア人のハーフに生まれたゆえにイジメにあい、アイスリボンからの移籍で大ブーイングを浴びたジュリア、そしてフィリピン人の母から生まれ、悲しい別れを経験した朱里。

そして第三章からは「女子プロレスを巡る旅」。一章、二章から一転してマーベラスの師弟、長与千種と彩羽匠インタビュー。テーマは昔と今の女子プロレス。女性が熱狂する女子プロレスとは何か。その答えを追い求めて辿り着いたのは長与千種。それにしても長与千種は本当に魅力的な言葉を紡ぐ天才だし、スターダム一強、ロッシー小川一強の今の女子プロレス界。ロッシーと同じく、全日本女子プロレスの遺伝子を引き継いでいるのは長与千種か、と思わせる言葉の数々。今の世には珍しい彩羽匠との師弟関係にも長与イズムを感じます。

そして最終章。第三章の長与千種、全女、GAEA JAPANを辿って辿り着いたセンダイガールズ。現状苦難が続いている状況ながらも、だからこそ生き抜く強さを手に入れつつあるのがわかり、改めて人としての生命力がプロレスの強さに繋がっていくのか。一周してプロレスとは、という根源的な問いかけをされているようなインタビューでした。

 

 

旅の終わり、そして闘いの始まり。

そしてこれらのインタビューの果て、一つのシングルマッチがラストシーンになり、この本はエンディングを迎えます。ここはぜひ読んでほしい。

一人のプロレス好きな人間に何ができるのか。また、プロレスを見ることによって何が変わるのか。やる側、見る側、結局プロレスって何だろうか。尾崎さんと黒田さんの「プロレスを巡る旅」を追うことにより、答えは見つからないにしろ、一つの成果を見たような気がしました。

と、尾崎ムギ子さん、黒田編集さん二人三脚で走りきった女子プロレスラーインタビューの旅「女の答えはリングにある 女子プロレスラー10人に話を聞きに行って考えた「強さ」のこと」尾崎さんの前著「最強レスラー数珠つなぎ」から読むと、黒田編集さんという新たな相棒を得て女子プロレスラーに共感し、働く女性が持つ課題に立ち向かい、そしてプロレスとは何か。自分がプロレスから何を得て、何ができるか。より深く共感し、掘り下げられているように思います。

この本の帯を書いた西加奈子が帯に寄せたコメントにこうあります

この荒野で闘い続けることを決めた彼女たちに、ありったけの拍手と祝福を送りたい

そう、この本は女子プロレスラー達のインタビュー集でありながら、闘い続けるプロレスラー達を取材した尾崎ムギ子さん、黒田編集さんがこれからこの世の中、この荒野で闘い続けることを決めた決意の書であり、この本のエンディングが新たなスタートになっている、と私は感じました。

この世の中と戦わざるをえない、壁を感じている人、試練に立ち向かっている人、手応えのない日常を送っている人に読んでほしい一冊。

最後まで読んで、ぐっと心を持ち上げられました!