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おおかみ書房発行、白取千夏雄「全身編集者」を読んで。ガロという雑誌、クーデターを巡るミステリー。最後鳥肌!

おおかみ書房が発行している白取千夏雄「全身編集者」を読みました。

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この本は、エロ劇画のヒドいシーンをひたすら紹介する「このマンガがひどい!」などでおなじみ、「なめくじ長屋奇考録」の劇画狼氏がやっているおおかみ書房から発行された一冊。伝説の漫画雑誌「ガロ」の元編集者であり、漫画家・やまだ紫の配偶者。2017年に亡くなった白取千夏雄氏の自伝本です。

 

ちなみに「ガロ」は伝説的漫画雑誌。1964年創刊、白土三平「カムイ伝」、水木しげる「鬼太郎夜話」などを掲載し、1980~90年代には蛭子能収、みうらじゅんらを輩出、サブカルチャーを担う存在になっていましたが、1997年には内部分裂により編集者全員が退社する事態になり休刊。一時復刊しますが、現状は廃刊状態になっています。 

『ガロ』掲載作品 水木しげる漫画大全集(1) (コミッククリエイトコミック)

『ガロ』掲載作品 水木しげる漫画大全集(1) (コミッククリエイトコミック)

 

 そしてこの本は白取千夏雄氏が函館から上京し、「ガロ」の編集者となり、嵐に巻き込まれつつ病魔と闘って生きた。その記録です。目次はこのようになっています。

第1章 「ガロ」との出会い

第2章 「ガロ」編集長

第3章 「ガロ」編集部へ

第4章 「ガロ」編集道

第5章 「ガロ」とバブル

第6章 「ガロ」長井会長・山中社長体制へ

第7章 「デジタルガロ」の真実

第8章 「ガロ」休刊の裏で

第9章 「ガロ」社員一斉退職後の苦難

第10章 白血病と余命宣告

第11章 やまだ紫との別れ

第12章 命が消える前に

第13章 「ガロ」編集魂

最終章  全身編集者

あとがき 山中潤

 

一気に読み終えて最後に鳥肌がたちました。本当にゾクっとする構成。この本は白取氏の本であることは確かですが、山中氏の本だし、「ガロ」の本でもあるし、そしてなにより劇画狼氏の一つの作品だった、ということが立ち上がってくるラストでした。

 

   

 

この本は、大きく分けて3つの部分に別れています。まず初めは白取千夏雄青年時代。上京して専門学校時代に長井勝一編集長と出会い、誘われて「ガロ」編集部に出入りするようになり、あれよあれよと編集者としての日々を送る白取青年。やりがいのある日々を送るものの金はなく極貧生活、日々働いていく中での長井編集長とのクスっと笑えるやりとり、マンガ、そして編集という職業への情熱が描かれています。

そして妻となるやまだ紫との出会い。ここまではまるで青春小説を読んでいるような、希望にあふれる若者の姿。そしてここから嵐に巻き込まれていきます。

 

そして”第二部”は、山中潤氏が参加しての「ガロ」立て直し計画、自分が「ガロ」の読者だったのもこの頃だと思います。当時の「ガロ」は漫画雑誌でありながら、サブカル、というかアングラな匂いを発散する刺激的な雑誌でした。特集でAVが取り上げられたり、おかしな劇団の公演情報が情報ページに載っていたり、白取氏が手がけていた「四コマガロ」では古屋兎丸氏や頭おかしいけど面白いマンガが載っていたり。

 

自分も「ガロ」のヤバい匂いや立ち上る創作の魂みたいなものに憧れていたので、一度マンガを投稿したことがあります。もうどこか失くしててありませんが、今思えば持ち込みに行けばよかったな・・・と残念に思ってます。「あのボロい青林堂行ったんだよ~」と自慢したかった。ひょっとしたら白取氏にも会えていたかも知れない。

 この頃のガロは確かに昔のマンガの再録と新人のマンガの二本立てで、やまだ紫のマンガも再録で読んだ記憶があります。ガロで知った漫画家は花輪和一、蛭子能収、友沢ミミヨ、逆柱いみり、パルコ木下、津野裕子、東陽片岡・・・。漫画家以外でも園子温とか連載してました。この時ガロをむさぼるように読んでた時期の経験が、今の自分を作り上げているように思います。どこかひねくれている部分であったり、いろんなものに強い「匂い」を求める部分であったり。感謝するとともに、ガロのおかげでどこか生きにくい性格になったような気もしますが。

 

しかし、一時期立ち直ったように見えた「ガロ」ですが、いろいろあって内部の関係悪化、その後ガロのクーデターが起こります。編集者が全員辞めて新雑誌「アックス」創刊、ガロは一旦休刊。そして自分もこの頃から追いかけるのを辞めてしまった。当時自分も読んでいてえらく混乱したのを覚えています。そして、この本ではついにクーデターについて、白取氏から見た真相が語られています。

 

UWF分裂についての書籍でもそうですが、それぞれ立場の違う人達が一つのことについて話す場合、それぞれの人の話は一本の筋が通っていても突き合わせてみると食い違っていたりする。なので白取氏の言い分だけを信じるわけにはいかないんですが、青林堂、ガロに対する思い入れと誠実さ、筋を通すことへのこだわりを感じる話でした。 

証言UWF 最後の真実

証言UWF 最後の真実

 

そして最後の部分はガロを去った後の夫婦生活、そして病魔。妻との別れ、そして山中氏との再開・・・。ゆるやかに病気と闘いつつ死に向かっていく白取氏。妻であるやまだ紫氏が倒れたときの描写は切実と言うか、死というものに対面するリアル、孤独への恐怖に心を掴まれてしまいました。

最後におおかみ書房、劇画狼氏との晩年の交流が語られた後、劇画狼氏の筆で白取氏の死が告げられる。編集者として人生を全うした白取千夏雄、最後の、渾身の一冊。パチパチパチ・・・。しかし、この本はここで終わらないのです。

この本を購入した人に言っておきたいのは、絶対この本は「最後まで」読まないといけない、ということ。最後まで読むことで、この本の姿、白取氏の像はガラリと変わってくるはずです。

この本は白取千夏雄という編集者の自伝としても、「ガロ」という漫画雑誌のある一時代の姿を切り取った記録としても、「ガロ」編集部クーデターという「事件」について、ある種のミステリーとしても読める。その仕掛けがすべて劇画狼氏の意図したものであり、白取氏との「共犯」でもある。いや、痺れる一冊でした。んあ~。面白かった。

 

この本、予約についてはこちらから。自分はboothから購入しました。タイミングによっては時間かかるかも知れませんが、5月29日現在ではまだ購入可能なはず。

booth.pm

「ガロ」っていう単語にビクッ!って来た人は必読。そうじゃなくても一人の編集者の波乱の人生を描いた自伝として面白かったです。いや、読んでドっと疲れた。でも読む意味のある本でした。入手にはちょっと手間がかかりますが、それだけの価値がある、とは断言できます。劇画狼凄い!脱帽しました。

 

   

 

というわけで、自分が「ガロ」で出会った漫画家たちの本を貼っていきます。

 

まず東陽片岡。昭和のスナック、キャバレーへの偏愛、畳の目を一つ一つ描きこむ偏執的な画面、登場人物全員が味のありすぎるキャラクター、下品で卑劣で粗暴だったりするけどもどこか憎めない人たちがくりひろげるくだらない日常。くだらない=かけがえがない、ということなんだと思います。

ワシらにも愛をくだせえ〜っ!!

ワシらにも愛をくだせえ〜っ!!

 

 「デブ専漫画家」としてガロでは紹介されてた(と思う・・・。)友沢ミミヨ。お母さんと「まめおやじ」こと娘さんの日々を描く子育てエッセイです。ポップでキャッチーじゃないけど独特のかわいらしさと、どこかアクのある絵柄がたまらない。いわゆる「いい話」より、くだらない話のオンパレードで和みます。お母さんもどこか子供なところがよりホンワカします。オススメ。 

まるごとまめおやじ (TOKYO NEWS MOOK 287号)

まるごとまめおやじ (TOKYO NEWS MOOK 287号)

 

 どこか不思議なところで不思議な生き物が生きている、そんなところでいろんなことが起こる。不気味でちょっとグロいけど、どこか突き放したような絵柄でありお話であり。ただただこの作者の脳内を観光しているような、不思議な作品を生み出している逆柱いみり。表紙で惹かれた人は好きになると思います。不思議面白気持ちいい本。

ノドの迷路

ノドの迷路

 

  「僕の小規模な生活」、「うちの妻ってどうでしょう」、でおなじみの福満しげゆきはアックスでデビュー。自分は4コマガロでこの人のマンガを読んでたと思います。卑屈で理屈っぽい作風はデビューからですが、最新作だと病的な部分は大分薄れてきたような印象です。初期作品はより病んでいるように思います。

僕の小規模な失敗

僕の小規模な失敗