ようやく完結!ということで、雲田はるこ「昭和元禄落語心中」10巻を購入しました。
こちらが通常版。
昭和元禄落語心中(10)特装版<完> (プレミアムKC BE LOVE)
- 作者: 雲田はるこ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/09/07
- メディア: コミック
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そしてこちらが特装版。違いとしては、特装版には前日譚的な小冊子が付いています。本編の内容を補強するような内容となっていて、これを読んだほうがいいかは正直、なんとも言えないところがあります。私は特装版を購入しましたが、小冊子を読んだ時は「は~。まあ、そういうことね」みたいな。腑に落ちた感もあり、身もふたもないようなところも少しありました。
ちなみに、これからあらすじをただ書いていくので、未読の人は購入して読んでください。既に9巻まで読んでる人は特に悩まずに。これから1巻、という人も一気に10巻まで駆け抜けていただきたい。
全ての風呂敷をたたんでいく10巻。八雲の死、そして後日譚
9巻のラストで死神に囚われて炎に包まれた八雲。10巻はその後から始まります。10巻の頭では寄席が焼け落ち、八雲が火傷で入院。席亭、落語家たちは悲嘆に暮れます。時代遅れになりつつありながらも伝統芸能を守ってきた寄席が焼け落ちたことで落語の火が消えるのか、という正念場。悲嘆に暮れる人々に雪が降り積もり、まさに冬の時代を予感させる描写。重苦しい雰囲気が漂います。
しかし、春を迎え、それぞれの人達がそれぞれの道を歩み始め、助六も道を寄席からラジオ等のメディアに活路を見出していきます。小夏もようやく助六との間の子を授かり、幸せな空気の中で八雲も退院して家で過ごし、小夏との今までを懐かしむ会話。春の暖かい陽射しの中、助六の落語がラジオで聞こえてきて、信之助がはやしたてる。幸せな空間の中、八雲は眠りにつくのです。しかしそれはただの眠りではなく・・・。
目覚めた八雲は助六(先代の)に起こされて死後の世界を案内されます。二人共子供の姿に戻りはしゃいでいるうちに、おとなになってみよ吉も登場し、3人で楽しい時を過ごします。過去の過ちを回想したりして楽しく歩いているうちに着いたのは寄席。香盤にはもう世を去った名人たちの名がずらり。八雲の名も既に載っています。この描写はまさにこの漫画なりの「地獄八景亡者戯」的世界。落語家の死を茶化したり、名人の物真似を入れごとにしたりされるこの噺をこの章ではまるまる再現しているといえるでしょう。粋な計らい。
そして助六は「二番煎じ」、八雲は「寿限無」を演って満場の拍手喝采。助六に見送られて三途の川を渡って行くのです。お後がよろしいようで。
訪れた優しい世界、そして残された小さい謎。
そして月日はめぐり、八雲の十七回忌。寄席も建てなおされてこけら落とし。信之助は落語家となり菊比古として高座に上がります。そして助六は八雲を襲名。小夏も落語家として活躍しています。全ては落語が繋げた縁であり、落語によって出来た世界。落語の力を信じる与太郎、助六、八雲。彼によって落語界が繁栄を迎えつつあり、明るい未来を暗示してこの話は終わります。落語の力を信じればいい。力強いメッセージを発した最終回。
私は池袋のベローチェで読んでたんですが、最後に本を閉じて、「ふう」と一息ついて、作者に「お疲れ様でした」と呟きました。いや、しっかり終わらせてくれた作者に感謝です。
そしてそのあと小冊子を読むことでパキっと浮き上がる1つの事実。10巻までを読んだ後で小冊子を読むことで、この物語の色合いが少し変わってくることは確かでしょう。血がぐぐっと通うというか、生々しさのレベルが上がるような印象。そして小冊子を読んでから本編を読み返すとまた場面場面の印象が変わってきます。
ただ、小冊子がない状態でしっかり完結しているし、小冊子がないほうが物語が「落語的」なのも確かだと思います。小冊子を加える事でぐっと現代的に、深く掘るような感じになっている。志ん朝好きな方は通常版、談志好きな方は特装版を買うといいんじゃないでしょうか(適当)なにはともあれしっかり面白いまま完結してくれたこの漫画。アニメの二期も楽しみです。
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