改めて全日本プロレス後楽園大会、宮原健斗vs丸藤正道を振り返っておきます。
何故かというと、この試合、宮原健斗というプロレスラーが、全日本プロレスのエースとしての第一歩を踏み出した。いや、去年、今年と全日本プロレスを引っ張ってきたのは確かな宮原ですが、改めて、自ら言葉として「エース」としての自覚を口にした。そしてそれをさせるだけの試合をした、という事で、これからの全日本プロレスが人気を回復していけるのであれば、この日は確実にターニングポイントとして刻まれる。そんな試合、そんな興行となりました。
セミまでは割愛。ジェイク・リー復帰戦やTAJIRI&KAI組の闘いっぷりなど、興味深い試合が続き、超満員に膨れ上がった後楽園ホールはもう出来上がった雰囲気。そして、サムライTV観戦の私でしたが、実況は村田アナ、解説は小佐野さん、そして選手解説として秋山準。もうなんというか全てのお膳立てが出来上がった、最高のシチュエーションが揃った。これを見れるだけで既に幸せ、というものです。
まずチャンピオンながら最初に入場してきた宮原。この理由は後ほど明かされるわけですが。ここで村田アナが秋山にコメントを振ります。
村田「いや~、いよいよですね。」
秋山「こんな雰囲気で三冠戦最高ですね本当に。」
3年前あたりは好カードを組んでも苦しい客入りが続き、選手離脱が続く苦しい時間を過ごした全日本プロレス、それが今は満員札止め。この状況にぐっときている秋山。
試合前に握手を求める丸藤、しかしそれを手を払い拒否する宮原。しかしここで和田京平と握手して観客の笑いを誘うあたりが丸藤の手練手管というか。そして試合開始。丸藤コールと宮原コール入り交じる会場。やや丸藤コールが優勢か。
試合開始後は丸藤がリングの中央に立ち、宮原が回る展開。組み合ってロープブレイク後、ロープワークから互いにヒザを出して避け合って一旦間をとる。緊張感が走ります。ただ、どちらがリングの中央に立つかで格が決まる、ということを考えると、この時点では丸藤が格上として試合が始まったわけで、解説も
村田「チャンピオンカーニバル決勝では丸藤が勝利したわけですが」
秋山「そうですね、まああのときは宮原が、若手の宮原に見えましたね。動き一つ一つが若手の宮原に見えて、今日もあの宮原だったらマズいですね」
小佐野「いみじくも宮原が、あの試合は自分が動かされていた、最近では珍しい感覚だったと言っていますからね」
と、丸藤有利を予想、そしてしばらくその予想が当たる形で試合が進行します。
再びのコンタクトは手四つから腕の取り合い。宮原がじっくり腕の取り合いに付き合うのは珍しい展開ですが、それを制した宮原がヘッドロックで締め上げ、ロープワークからショルダースルーで丸藤、場外に。
追いかけて場外に降りた宮原、ヘッドバット連発!宮原のヘットバットは「ゴツン」と「グチャ」の間の音がするのでいかにも「効いている」という感じ。鉄柱越しにネックロックで締め上げていきます。しかしここで和田京平がブレイクに。するとすかさず丸藤がトラースキックで反撃。コーナーに追い詰めてチョップ、鉄柱に叩きつけてからチョップ。場外で宮原に傾いた流れを一気に引き戻す丸藤。さすがの試合巧者っぷりを発揮していきます。
リング内でも丸藤ペース。ヘッドロックでねちっこく攻めていきます。ロープに振られても離さず締め上げ、宮原がなんとかロープに振っても再びヘッドロックに。バックドロップを仕掛けられても着地してヘッドロックに。とにかくサイドヘッドロックを離さない丸藤。そしてこれを見ての秋山のコメント
秋山「僕ら見てると、誰かの感じというか、こういうのは小川さんのイメージですね」
小佐野「小川良成のあれですかね~」
村田「プロレスラー丸藤正道が闘ってきた中での」
秋山「そこは見てるでしょうし、勉強していくだろうし」
ヘッドロックを解き、相手の腕をクロスして締め上げる丸藤。一旦返されるが再びヘッドロックで締め上げ、完全に試合を支配している印象を観客に与えていきます。
しかしそこから逃れ、宮原もヒザへのドロップキック→ロープに飛んでのドロップキック→串刺し式ブラックアウトで反撃。グロッキー状態になる丸藤。場外に逃れた丸藤にエプロンからのフェイスバスターでダメージを与えていきます。そして再びの場外ヘッドバット。このヘッドバットで試合のペースを握りにかかる宮原。なんとかヘッドロックのダメージからの回復を図って立て直していこう、という宮原。両者リングに戻り試合が再スタート。
しかし、コーナーにもたれかかる丸藤に走り込んだ宮原、キックで迎撃され、キックの連打で倒される。そしてロープをめぐる攻防からのドロップキック。そしてエプロンでのパイルドライバー。なんとかリングに戻った宮原に向かい、コーナーTOコーナーのドロップキックで迎撃する丸藤。ここからラッシュをかけにいく丸藤。不知火を狙っていきますがここは避ける宮原。ロープワークから丸藤、宮原互いにトラースキックから両者ダウン。ここでペースを握らせないところが前回との違いか。
立ち上がった両者がエルボーとチョップの打ち合い。しかしここはやはり丸藤のチョップに一日の長があるか、チョップ連打で優勢に立つ丸藤。しかし、フロントキックからのブレーンバスター、そこからブラックアウトに繋ぎ、カウント2で返されるとジャーマン・スープレックス!しかしここは丸藤もカウント2で返します。
ここからシャットダウン式スープレックスを狙う宮原ですが、こらえた丸藤がコブラクラッチ。チャンピオンカーニバル決勝で長時間締め上げ、勝利を呼び込んだ技。宮原も一旦逃れようとしますが立ち上がっても離さない丸藤、バッククラッカーで叩きつけて再び締め上げていきます。そして立ち上がったところを虎王!しかし先に立ち上がった宮原が突進しますが、かわした丸藤が再び虎王!カウント2で返された所を不知火!しかしなんとか宮原、カウント2で返す!
ここで前回決め技となったポールシフト式エメラルドフロウジョンを狙う丸藤、着地した宮原が背後からのブラックアウト!さすがに前回の轍は踏まない宮原。ここから一気に勝負をかける!
再びシャットダウン式ジャーマンを狙う宮原、かわした丸藤がトラースキックから虎王、ヒザの相打ちからブラックアウト3連発でフォールを狙うもカウント2,しかしそこからすかさずシャットダウン式ジャーマンに繋げてそのままフォール!1・2・3!宮原健斗、見事な三冠防衛を果たしました。
秋山「いやもうね、本当に最後は。でもまだ宮原には体力残っていたと思いますよ、あそこまで動けるんですから。でもいい試合でした。」
村田「あの爆発力は凄かったですね」
秋山「しかしまあ、試合を支配したのは間違いなく丸藤だと思います」
小佐野「でもね、あの丸藤を乗り越えたということで、宮原にとってはターニングポイントになる試合になったでしょうね」
秋山「やっぱり、先輩とやるときはそうなんですよ。やっぱりこういう試合になると思うんですけど、最後に勝って終わる、っていうのは絶対違うと思うんで、これからまた成長していくんじゃないでしょうか」
いや、素晴らしい試合でした。特に後半のスピード感。宮原健斗、技を全部受け切るわけではなく、雪崩式不知火やポールシフト式不知火は出させずにブラックアウト3連発からシャットダウン式ジャーマンに繋ぐ攻めの畳み掛け。
そしてそれまでも確かに丸藤ペースではありましたが、所々で場外の頭突きなどでペースを引き戻し、しっかりと綱引きを行っていました。きっちりと前回のシングルから対策し、丸藤正道から観客を納得させる勝利。改めて三冠王者としての宮原健斗が浮かび上がってくる一戦となりました。
そして丸藤正道の恐ろしさ。前回のチャンピオンカーニバル、今回の三冠戦と、攻めていた時間は明らかに丸藤が長かった。しかもだらだら攻めているわけではなく、同じ技でも体制を変えて何度も仕掛け、客の目を惹きつけ続ける。だからこそ実際よりも攻めている印象を与えられる。観客の心理をも操る丸藤の底なし感、ラスボス感。まだまだ丸藤健在、を印象付けた全日本参戦でした。
そして、試合後にはディラン・ジェイムスから申し込まれた挑戦を受諾。そしていつもの「宮原ワールド」いつもは「全日本プロレス、最高ですか~」の流れにいくんですが今回は違い、しっかりとメッセージを発信しました。
宮原「今日、ジェイク・リーガこのリングに戻ってきた。俺は2年半前、忘れもしない・・・。最強タッグの決勝戦終わりで、俺らの時代で新しい道を作ると言った。
紛れもなく、新しい時代の先頭はこの俺だ!ジェイク・リー!野村直矢!青柳優馬!早く俺のところまで来いよ!
ここで、プロレス界で最高のチャンピオンは誰だと思いますか?正直な声を聴かせてくれ!・・・満場一致で宮原健斗で~す!」
若手の奮起を促す宮原。ここまではっきりと言葉として発信することは珍しく、それだけこの日にかけるものは大きかったのでしょう。
そして、バックステージコメントでも
宮原「初防衛、初防衛は遠かった。遠い遠い初防衛だった。ここまでの道のり。チャンピオンカーニバル決勝戦で負けて、長かった、これほど長い一ヶ月なかった。それくらい、毎日夢に丸藤選手が出てきた。それくらい、長かった。」
記者「改めて丸藤選手との闘いを振り返って」
宮原「いや、流石の一言です。懐かしい感じもしつつ、新しい感じもしつつ。宮原健斗が次に行くにあたって必然の相手だったかなと思います。」
(中略)
記者「今日、チャンピオンにもかかわらず先入場でしたが、宮原選手の希望だったんでしょうか」
宮原「俺のプロデュース能力。今までチャンピオンで先に入場した人はいないでしょう。俺は新しいもの好きだから、俺のプロデュース能力だよ。宮原健斗は先入場だ」
記者「ジェイク・リー選手の復帰については」
宮原「いや、ようやく来たかと。ファンの人は待ってたでしょうし、俺が一番待ってたかもしれない。
宮原「色んなとこで言われるんですよね。宮原健斗さん、ライバル欲しいですねって。同世代のライバル欲しいですねって。それが一番最初にジェイク・リーが来るかと思ったら、野村直矢、青柳優馬が出て来た。」
宮原「リング上で言ったとおり、早く俺のとこ来いよ。プロレス界最前線、俺が突っ走るところに早く来いよ」
記者「以前、自分はベルトが似合う、とおっしゃっていましたが」
宮原「いや、こんな三冠チャンピオンが似合う人は歴史上いないでしょう。俺の中でも二人目くらい。二人目。」
記者「では一人目は・・・」
宮原「全日本プロレスってね、俺みたいにねぇ。喋って喋ってっていう人間いなかったと思うんですよ。そうやって俺は引っ張っていくから。全日本プロレスらしくないでしょう。それが俺のやり方です。まだまだ、新しい道はスタートしたばかりですから。」
宮原「ただ、道は出来てる。道は出来てる。俺が先頭切ってるから。早くジェイク・リー野村青柳優馬、早く来てくれよ」
記者「ちなみにベルトが似合う一人目っていうのは・・・。」
宮原「三沢光晴さん。俺の中で、それくらい、今俺の立場はそれくらいだと思ってるから。それくらいの立場で引っ張ってます。」
宮原「ただ俺は過去を振り返ることはしない。ただ、リスペクトはしてるから。それは、このベルトを巻いてるんだ。イヤでも感じるよ。早く、ジェイク・リー野村直矢青柳優馬、俺のとこまで来いや。」
小佐野「宮原って今まで対戦相手のことを語ることが無かったし、自分のことを語るしか無かったんですが、今回は丸藤のことも語る、人のことも語る。何かちょっと変わってきて、自信満々のチャンピオンなんだけども、重みがついて来ましたよね」
小佐野さんのコメントにもあるように、前回のチャンピオン時代から一歩踏み込んだ姿勢を見せ始めた宮原健斗。明確に「三沢光晴」という名前を出し、若手の奮起を煽る。今までの「自分大好き」な姿勢からは考えられない変化を感じます。
「熱血プロレスティーチャー」小佐野さん入魂のプロレス歴史本。必読です。
三沢については、リング禍での死亡という事情からも、全日本プロレス、プロレスリング・ノア勢からもあまり名前を出されなかったところがありますが、ここで宮原が明確に「三沢光晴」という名前を出したことで、全日本プロレスを背負う覚悟を明確に表明したといえるでしょう。いや、あるいはノア、W-1という「全日本系」団体を一挙に背負う、くらいの意図があるのではないか。私はつい、そこまで考えてしまいました。
ともかく、丸藤戦でエースとして「覚醒」した感のある宮原健斗。これからチャンピオンとして、全日本プロレスをどう舵取りしていくのか。そしてプロレス界の中での存在感をどこまで上げていくのか。なにか考えがあるのか。しっかりと見て生きたいと思います。全日本プロレス、サイコー!