今色々話題のスターダム。自分もあの一件をツイッターで知り、たまたま「書泉グランデ」の近くにいたのであわてて戻って購入したのがこの一冊。ちなみにその前に買ってたのがこの二冊。コクのある本ばっかり買って帰宅しました。
書泉グランデで購入。「ミック博士の昭和プロレスマガジン」裏社会とプロレスの関係も絡めた「昭和プロレス未解決事件ファイル」が読ませる。裏大河ドラマの様相。 pic.twitter.com/sO4TdltJUw
— 男マン (@otokoman) 2019年10月14日
そして本のリンクはこちら。
ロッシー小川がどういう人かというと・・・。とりあえずAmazonの内容紹介を引用するのがわかりやすいと思います。
ビューティー・ペア、クラッシュギャルズ、団体対抗戦時代……。多くのスターを生み出した日本の女子プロレス。その影には一人の仕掛け人がいた。ロッシー小川、現在は女子プロレス団体「スターダム」の代表取締役を務める男である。
その人生はまさしく女子プロレスそのもの。巨大帝国・全日本女子プロレスの企画広報部長として、長与千種や北斗晶といったスーパースターをプロデュースし、前人未踏の東京ドーム大会まで到達。その後、自らの理想を実現するために全女から独立し、新団体「アルシオン」を創設。満員の後楽園ホール旗揚げ戦という華々しいスタートを切ったが、経営難による団体崩壊と天国と地獄を味わった。そしてまさかの車上生活から、不死鳥のごとく復活……。
生き馬の目を抜くプロレス興行の世界で、ロッシー小川は何を見てきたのか。女子プロレスの名伯楽が初めて明らかにする、知られざる昭和・平成の女子プロレス史!
読み進めていくと、ロッシー小川の自伝でもありながら、本当にひとつの「プロレス史」が浮き上がってくる本でもありました。
10歳の時、1967年からプロレス観戦しはじめたロッシー。ボボ・ブラジル、タイガー・ジェット・シンらにサインをもらいまくるようになり、そして後楽園ホールで勝手に(!)リングサイドで写真を撮り、顔パスになって松永会長と出会ったことで全日本女子プロレスに入社することに。
なんというかいきなり破天荒と言うか、能天気というか。時代を感じさせるエピソード。そしてビューティーペア、クラッシュギャルズ、ブル中野、アジャ・コングの抗争、北斗晶vs神取忍から一気に火がついた1990年代の団体対抗戦時代と全日本女子プロレス全盛期を松永兄弟らと築き上げることに。雑用から営業、広報からマネージャー、マッチメイク等、レスラー以外の仕事はなんでもやっていたロッシー。
私は団体対抗戦時代は熱心に見ていましたが、ロッシーは週プロなどに露出も多く、「全女が最高!最強!他団体などメではない」というような言動を繰り返す怪しいおじさん、というイメージでした。
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しかし、物語の本番はここから。1998年、全日本女子プロレスを離脱し、自らが社長としてアルシオンを旗揚げ。浜田文子、府川唯未、吉田万里子らを擁して当初は順調だったアルシオンも協力会社とのトラブル、スポンサー料の未払い、相次ぐ選手の離脱、そして死亡事故などもあり徐々に経営が悪化。そしてついにアルシオンは2003年、新団体AtoZに吸収される形で解散。これがロッシー小川の地獄の始まりだったのです。
マンションを解約し、事務所、道場に住み込む日々が続き、そしてついにキャンピングカーの中で暮らす漂流生活に。まさか1990年代の全日本女子絶頂期、アルシオン旗揚げ時のイケイケな時期からわずか数年でこの転落。しかし、ここで終わるロッシーではなかったのが凄いところ。
女子プロレス関連の原稿を書いて糊口をしのぎつつ、風香のプロデュース興行などを手掛けつつ、2010年のスターダムの旗揚げにつなげていき、ゆずポンこと愛川ゆず季、風香、紫雷イオ、宝城カイリらを排出。高橋奈苗が去り、安川惡斗vs世Ⅳ虎の喧嘩マッチ、イオ、カイリのWWE転出など様々な危機を切り抜けながら今、日本の女子プロレスで最も大きい団体として存続。いろいろな話題をふりまきながら、「プロレス生活の集大成」と自ら言うスターダムの社長として今を迎える、というところでこの自伝は終わっています。
確かに、とにかく登場する名前を羅列するだけでも「日本の女子プロレスの歴史」といってもいいボリュームの本。70年代のビューティー・ペアから80年代のクラッシュ・ギャルズ、ダンプ松本、大森ゆかり、90年代はブル中野、アジャ・コング、北斗晶、豊田真奈美、山田敏代、長谷川咲恵、堀田祐美子らの全女全盛期。
そして00年代は浜田文子、府川唯未、藤田愛らのアルシオン勢、そして風香、華名、栗原あゆみといったスターの原石。10年代は紫雷イオ、宝城カイリ、そして岩谷麻優・・・。
とにかく全女入社からにしても50年にもわたる自伝となるため、ひとつひとつのことがら、事件についてはあっさりとした描写になっており、とても読みやすい本になっています。毀誉褒貶の激しい人物でありながら、確実に日本の女子プロレス史の中心にい続けているロッシー小川。女子プロレスの歴史を知りたいのであれば一読をおすすめします。
そして読むと、基本的にロッシー小川の中には強い女子プロレスへのこだわりと愛情があるのがわかります。とにかく団体を存続させて選手を育てる。そのために必要なことは何を言われようとしっかりと実行する。地道なことも、人に嫌われることであってもそれは同じこと。この本を読んで思うことは、ロッシーが50年女子プロレスに関わってきた上での身も蓋もないリアリティ。そのリアリティの前では、見知らぬ他人がネット上で叫ぶ正論などはどうでもいい。そのような強いリアリティがロッシーを今の立場に立たせているんだろうな、ということでした。
そしてやはりロッシーは「松永兄弟の子供」でもあるのでしょう。全女在籍時代はのらりくらりと選手からの要求をかわすばかりの松永兄弟にイライラしていたロッシーも、アルシオン、スターダムでは同じような対応をすることになる。いざ自分が社長になってみて初めて彼らを理解する。「松永兄弟のDNA」があるのなら、ロッシー小川はそれを受け継いでいることを感じさせました。
しかし、忘れてはいけないのはこれは「ロッシー小川から見た女子プロレス史」となっているということ。反対側から見たら違う景色ということもおおいはず。実際に、アジャ・コングがアルシオンと裁判になったことについての記述は無いですし、私も安川惡斗vs世IV虎の試合はサムライTVで見ましたが、ロッシーが世IV虎を叱り飛ばしたという描写はあったものの、その前に惡斗が相手の技を一切受けずに顔面パンチを出し続けたことへの描写はなし。ある程度伏せている部分ももちろんあるでしょうし、そこら編は嘘ではないけど第三者によるドキュメンタリーでもない。あくまでロッシー小川の体験した、ロッシー小川にとっての「事実」が書いてある本。これが私がこの本を読んでの感想です。
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とはいえ、女子プロレス史としても、ロッシー小川の人生を描いた本としても読み応え十分、コクのある一冊であることは確かのこの本。今ジュリアの件で絶賛プチ炎上中のロッシー小川ですが、この本を読むと何でアルシオンが他団体ファンから蛇蝎のように嫌われても超然としているのか。ロッシーの思考がどこからきているのかが少し紐解けるように思います。まあそれで好きになるかは別として、私は非常に面白く読みました。野次馬的興味から手にとったこの本ですが、買って損はなかった!と言える本でした。いや、濃厚でした!
ちなみに、レスラー側からの女子プロレス史としてオススメなのはこの 「吉田豪の”最狂”全女伝説」初期から末期まで、全日本女子プロレスの狂ったエピソード満載なこの本。ロッシー小川ももちろん登場してます!
そして、全女よりもうちょっと新しい時代、全団体網羅したインタビュー集としてオススメなのはこちら。文庫版には里村明衣子、雨宮まみ、柳澤健の対談も掲載。女子レスラーの結婚、引退について里村が語ったりしています。