男マンの日記

マンガ、落語、お笑い、プロレス、格闘技を愛するCG屋の日記。

オリンピック開閉式クリエィティブチーム・小林賢太郎解任騒動について感じた違和感について。

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小林賢太郎 突然の解任

東京オリンピック開会式の前日、小林賢太郎がオリンピック開・閉会式制作・演出チームを解任されるという事件が起こりました。

23年前のコントの一部分が拡散され、一気に話題になったことでユダヤ人人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(以下SWC)」からの非難声明を受けて組織委員会から7月22日にオリンピック組織委員会から解任されることになりました。

朝日新聞デジタルの記事はこちら。

www.asahi.com

そしてプレスリリースはこちら。

olympics.com

SWCからの非難声明はこちら。(英文)

www.wiesenthal.com

そして、オリンピック前日記者会見ページの中に本人のコメントが載せてあります。それはこちら。

olympics.com

そしてコメント全文はこちら。

小林賢太郎と申します。私は元コメディアンで、引退後の今はエンターテインメントに裏方として携わっています。

かつて私が書いたコントのセリフの中に、不適切な表現があったというご指摘をいただきました。確かにご指摘のとおり、1998年に発売された若手芸人を紹介するビデオソフトの中で、私が書いたコントのセリフに、極めて不謹慎な表現が含まれていました。

ご指摘を受け、当時のことを思い返しました。思うように人を笑わせられなくて、浅はかに人の気を引こうとしていた頃だと思います。その後、自分でも良くないと思い、考えを改め、人を傷つけない笑いを目指すようになっていきました。

人を楽しませる仕事の自分が、人に不快な思いをさせることは、あってはならないことです。当時の自分の愚かな言葉選びが間違いだったということを理解し、反省しています。不快に思われた方々に、お詫びを申し上げます。申し訳ありませんでした。

先ほど、組織委員会から、ショーディレクター解任のご連絡をいただきました。

ここまで、この式典に関わらせていただけたことに感謝いたします。

小林賢太郎

各マスコミが「SNSでホロコーストをやゆした動画が出回り、ネットで話題になったために解任」というような言説で伝えていましたが、実際広がったのは、実話BUNKA超タブーの1ツイート。リンク先はニコニコ動画にアップされたコント動画でした。

この動画自体違法アップロードされたもので、元の素材は「ネタ de 笑辞典」というシリーズの、複数の芸人のネタを収録したオムニバスビデオ。ジャケットから判断するに、1998年に発売された「ネタde笑辞典ライブ Vol.4」だと思います。

これの一部分が急激に拡散してSWCに伝わり(中山防衛副大臣が通報した、という話も、そのときには他の通報者が居てSWCは知っていた、という話もあります)抗議声明が出て即オリンピック委員会が解任を決めた、というのが今回の経緯になります。

   

私が感じたこの件についての違和感について

「小林賢太郎がラーメンズ時代にホロコーストのネタをやってたのがオリンピック直前にバレてクビになった」

と、今回の騒動を雑にまとめるとこうなりますが、個人的に気になっていることがいくつかあります。

 

まずひとつは、SWCは正確にこの元になったコントについて正確に把握していたのか?ということ。7月21の深夜に実話BUNKA超タブーのツイートが上がり、拡散していって22日には抗議声明が出されて小林賢太郎は解任されています。

このスピード感で、まず問題になったラーメンズのネタをきちんと把握して理解できたのかということ。実際、問題になった「できるかな」というコントでホロコーストが出てくるのは一箇所のみでほぼ一言二言。全体を台本に起こすとその数十倍の分量になると思います。問題箇所がオチになってるわけでもありません。

そして、Amazonリンクも貼りましたが、このネタが収録されたビデオを今から入手しようと思ったらかなりの困難が伴うはず。SWCがどういう理解で抗議声明を出したのか。オリンピック前日に話題になってスピード解雇、「ホロコースト」という強い単語の入ったニュースのため世間にはわりと疑問なく受け入れられてましたが、正直23年前のコントの一言・二言でここまで糾弾されるものなの?という疑問は自分の中にはありました。

 

そしてふたつめは、世間に拡散したのが「ニコニコ動画にアップされた違法動画」だったということ。SWCもおそらくこの動画を見て判断しているでしょうし、書き起こしたメディア、報道もこの動画ベースで報道しているということ。

そもそも(今回は違うっぽいですが)アップ主によって後から加工されている可能性もある、公式から出たものではない違法動画をもとに小林賢太郎が糾弾されていることに違和感を覚えました。別にTwitter上で一般人が騒いでいる分にはいいんですが、報道マスコミはせめてちゃんと元の映像を手に入れて判断してほしいし、切り取られた動画部分だけセリフを書き出す、という行為が報道なのかは考えてほしい。コント全体を見れば(私もアレしてアレして見ましたが)ホロコーストがメインのテーマじゃないことはわかるはず。「ホロコーストを揶揄」というより、NHKの「できるかな」を揶揄したコント、という表現が正しいと思います。

 

みっつめは、どれだけ流通されたかちょっと調べられませんでしたが、今拡散されている度合いより見ている人はかなり少なかったと思われること。23年前に数千本から数万本出回った(予想ですが)コントビデオの中の1コントの一言を取り出して今問題化することが理にかなっているのか。むしろ今回の件で世間が知ることになったと思いますが、それは団体の趣旨として正しいのか。また、この規模で行われていたものだということをSWCが正確に把握していたのか。コソコソやってたんだからいいだろ、と言いたいわけではありませんが、行為と罰のバランスがこれでいいのか?というのは考えてしまいます。

 

よっつめは、SWCが今の小林賢太郎についてどれだけ知っていたのか。現在の小林賢太郎はラーメンズを解散し、ラーメンズ時代のコントは100本YOUTUBEで無料公開しています。その収益は日本赤十字を通じて災害復興のために寄付されています。

www.oricon.co.jp

 そしてラーメンズ公式YOUTUBEチャンネルはこちら。

www.youtube.com

 

と、このような個人的引っ掛かりがありました。ホロコーストを安易に茶化したりネタにすること自体がユダヤ系の人々に対して傷つける行為であり、特にオリンピックという場では禁忌であることは確かですが、この炎上が本当に開会式直前であったこともあり、一気に解任までいってしまった印象があります。

www.youtube.com

   

まとめ&今後について

既に小林賢太郎は解任され、開会式は終了してしまっているのでこれから何か覆すのは難しい状況ですが、オリンピック終了後にでもどこからかこの件について詳しい検証と、解任が唯一の選択肢だったのか(個人的には、謝罪文出して続投くらいが妥当な線だったように思います、オリンピック委員会がSWCともう少し折衝して詳細を説明すれば可能性は合ったのではないか?と思っています)という検討は行われてしかるべきだと思います。

 
国際ジャーナリスト、高橋浩祐氏による小林賢太郎解任についての記事。個人的には、時代性、文脈を無視して当該部分だけを抜き書きする、というのはアンフェアな報道だと思いますし、この件について観客が笑っているなら23年前の観客が悪いし、このビデオを販売した日本コロムビアの責任、出回ったのが違法アップロード動画だったということはスルーしています。

また、この人はホロコーストの理解のために「シンドラーのリスト」を薦めていますが、それはいいとして、ホロコーストを真面目に扱えば良くて笑いにしたらダメなのか。基本的にフィクションに興味の浅い人の書く文章だな、という印象を受けました。

news.yahoo.co.jp

 

 翻訳キュレイター・ライターのLiT_Japanさんのnote。この件に対する海外の反応なども含めて翻訳し、キャンセルカルチャーについても考察しています。

note.com

風刺ネタ中心に活動していた(現在はお休み中だそうです)たかまつななの意見。個人的には共感する部分が多かったです。 

www.youtube.com

 また、その後の報道等を見ると、「ホロコーストをネタに=言ってはいけないことを言ってしまった」という表現で”腫れ物に触る”ような扱いで解任を肯定するコメントばかりが並んでいます(サンデージャポンで太田光は文脈の説明をしてオリンピック委員会の詳細な説明を求めていましたが) これを肯定してしまうと、今後いくらでも昔のネタ、創作物を掘り返して晒して辞任に追い込む、というようなことが可能になってしまいます。芸人やクリエイターが無批判にこのことを肯定することは自分の首を締めることにもつながるように思うのですが...。