先日、twitter上で #プロレス界のバランスを変えた試合 というハッシュタグが流行っていて自分もいくつか乗っかってツイートしてましたが、かなり反響があったのがこのツイートでした。
#プロレス界のバランスを変えた試合
— 男マン (@otokoman) 2020年10月27日
1993年4月2日 北斗晶VS神取忍
怪我に泣かされ、中堅に甘んじ、ヒールターンしてあがいていた北斗晶が一夜にして女子プロレス界のド真ん中に立った試合。初の大規模な団体対抗戦、神取忍という「幻想の塊」をプロレスに引っ張り込んだ。歴史的興行&試合
というわけで、このツイートのリアクションを見たり、色々思い出してるうちに一度エントリとしてまとめておこう、と思ったので改めて試合を見直してこの伝説的興行を振り返っていきます。
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女子プロレスの伝説的興行「夢のオールスター戦」
1993年4月2日、横浜アリーナで初めて行われた女子プロレス対抗戦興行。全日本女子プロレス、JWP、LLPW、FMW女子と、女子プロレス団体が一同に会して行われたこの大会。「女子プロレス対抗戦時代」の幕開けとして歴史に残る大会になりました。
この団体対抗戦について暗躍したのが当時全日本プロレスの社員だったロッシー小川。詳しくはこちらの本など参照してください。
こちら私は未読ですが、元週刊プロレス小島記者による団体対抗戦についての記録本。本当に「一瞬の熱狂」だったあの時代・・・。
そして対抗戦のみではないですが、吉田豪の全日本女子プロレスインタビュー集。対抗戦のみではないですが、全日本女子プロレスの独特な風土が感じられると思います。
と、そんな伝説的興行。その中でセミファイナルで行われた北斗晶VS神取忍。この試合で「デンジャラス・クイーン北斗晶」が爆誕し、「プロレスラー神取忍」が改めて生まれ、なにより「女子プロレスの闘い」の凄さがプロレスファンの間に認識された。女子プロレスのエポック的試合でした。 DVDはこちら。
ちなみにこの日のカードはこちら。
第1試合:ハイスパート・フレッシュバトル
長谷川咲恵&伊藤薫(全日本女子プロレス)
vs
プラム麻里子&福岡晶(JWP)
第2試合:タフ&ラフ・デッドリーランブル
テリー・パワー&沼田三絵美(全日本女子プロレス)
vs
土屋恵理子&前泊よしか(FMW)
第3試合:エストレージャ・エン・ボラドーラ
下田美馬&渡辺智子(全日本女子プロレス)
vs
KAORU&ウルティモ・ティグリータ
第4試合:ビーナス・デュオ~美闘物語~
みなみ鈴香&三田英津子(全日本女子プロレス)
vs
風間ルミ&半田美(LLPW)
第5試合:WWWA世界格闘技選手権
バット吉永(全日本女子プロレス)
vs
スーザン・ハワード
第6試合:メモリアル・スーパーファイト
長与千種
vs
デビル雅美(JWP)
第7試合:ヒートアップ・ザ・シャイニングスターズ
井上京子&井上貴子(全日本女子プロレス)
vs
尾崎魔弓&キューティー鈴木(JWP)
第8試合:ガモンスター“巨大空間"ウォー
アジャ・コング&ブル中野(全日本女子プロレス)
vs
ハーレー斉藤&イーグル沢井(LLPW)
第9試合:フルパワー運命闘争'93
堀田祐美子(全日本女子プロレス)
vs
ダイナマイト関西(JWP)
第10試合:デンジャラス・クイーン決定戦/横浜極限
北斗晶(全日本女子プロレス)
vs
神取忍(LLPW)
第11試合:ザ・全女イズ夢・ウィニングロード
山田敏代&豊田真奈美
vs
コンバット豊田&工藤めぐみ
そして北斗晶VS神取忍。私も会場で見てたんですが、なんというか得体のしれない熱に巻き込まれたようなすごい空気になりました。感動というか、ただただ凄いものを見た、というか。
そして何が恐ろしかったって、この横浜アリーナ大会、この試合がセミファイナルだったということ。このセミファイナル終了時で12:00を越えてJRの最終ギリギリだったこともあり、メインイベントは空席が目立つ凡戦になってしまいました。帰る観客が多かったのもありますが、この試合で観客も気力を使い果たしてしまったから、というのもあったかと思います。
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伝説の一戦 北斗晶vs神取忍~実現まで~
そもそもこの試合、北斗が神取に噛みつきまくってなんとか実現したもの。当時の北斗晶は叩き上げでのし上がっていったものの、首の骨折などのケガに泣かされ、後輩の豊田真奈美&山田敏代の突き上げを食らい、ベビーフェイスからヒールターン、ブル中野と組み、そして下田美馬&三田英津子とラス・カチョーラス・オリエンタレスを結成。全日本女子プロレスの象徴、WWWAのベルトを巻いたこともなく、なんとかトップ戦線に食らいつこう、という位置でした。
一方神取忍はアマチュア時代、世界選手権二位になるなどの実績から鳴り物入りでジャパン女子プロレス入り。その後も「あの」ジャッキー佐藤との喧嘩マッチ、長与千種から熱烈な対戦ラブコール(実現せず)など、ある意味女子プロレスの「天上人」的ポジション。試合前の両者の位置には少し差もあり、正直メインイベントの豊田真奈美&山田敏代vs工藤めぐみ&コンバット豊田や、セミ前の堀田祐美子vsダイナマイト関西とはちょっと違ったと言うか、本当にどうなるか未知数の試合だったのです。
事前の記者会見でもピリピリ&乱闘。グラグラするカメラの演出が昭和ですが、ここですでに北斗晶の啖呵の素晴らしさ、神取の言いなれてない凄みが伝わります。とにかく緊張感がエグかった。
伝説の一戦 北斗晶vs神取忍~激闘の経過~
前哨戦でも紙面で北斗が神取を「柔道かぶれ」、「自称最強」と噛みつき、神取が「本番は叩き潰す」と反撃する中で当日を迎えます。緊張感漂う中両者入場。神取の「ホンモノ感」が凄い。
そして北斗は般若の面を被っての入場。この刀を思い切りリングに突き刺してキャンパスに穴が空き、後で怒られたというステキなエピソードも。
両者コールされてゴング。まずは北斗が口で挑発「やってみろよコラ!」と言いつつ近付き、組み合うかと思ったらいきなりグーパン!顔面!反則!
グラ・・・。っとスローモーションで倒れる神取。いきなりKOか?と思わせますがさすがに立ち上がり、追い打ちにきた神取を不器用なラリアットでなぎ倒してから腕を取ってひねりあげる!北斗の悲鳴が横浜アリーナ中に響き渡る!左腕が方から痙攣する状態になった北斗、場外に落ちて慌てて駆け寄るセコンド!
「痛い痛い痛い!さわるなさわるなさわるな!!」と北斗の悲鳴が響き渡る中、ハズれたらしい肩をその場で入れる事態に。
なんとか戦線復帰した北斗、状況打開のために場外戦に持ち込んで机パイルドライバーを狙うも逆転されてパイルドライバーを思いっきり食らうハメに。そしてこの状態へ
大・流・血!!今なら即ストップするレベルの流血。血が吹き出て思わず足がフラつくレベルでみるみる北斗の顔面が地に染まり、フラフラとそこらをさまようことに。しかし執念で闘い続ける。まさにデンジャラスクイーン・・・。
その後北斗はめげずに場外戦に持ち込み、神取も流血へ。ここらへんから試合はドロドロの消耗戦の様相を呈し、魂を削る闘い、極限に向かってのドツきあいが続いていきます。「天上人」だった神取忍が徐々に地上に降りてくるような。いきなり瀕死の重傷を追った北斗晶が神取の足を掴んでプロレス沼に引きずり込むようなファイト。
神取はパンチ、キックと得意の関節技で北斗を追い込んでいき、北斗はそのたびに暴れてロープエスケープ。必死とはこのこと・・・。
北斗は蹴る、殴るに加えて純プロレス技で対抗。ダイビングボディプレス、スピンキックなど飛び技も駆使して「女子プロレス」ワールドに引き込んでいきます
神取も徐々にプロレスの大技で逆襲!このラストライド式パワーボム!高い!思いっきり叩きつける衝撃!
コーナーに登った北斗を引きずり込み、スリーパーホールドにとらえてブン回す神取!強い!ただ強い!ここからスリーパーでギリギリと締め上げるもなんとか逃げる北斗。とにかく神取の「関節技一発極まればおしまいよ」感がすごい。北斗が逃げるときも鬼気迫るヤバさが伝わってきます。
試合時間20分も越え、場外に落とした神取へスワンダイブ式トペ・コンヒーロに続いてミサイルキック!高い!鮮やか!
そしてついに一度アピールから返されてからの北斗晶必殺!ノーザンライト・ボム炸裂!ボディスラムの形で持ち上げて頭から落とす、というなんというか、「元祖人でなしドライバー」と名付けたくなる技。しかしなんとかカウント2で返す神取!
追い打ちでノーザンライト・ボム狙いの北斗、しかし神取が返し、「掟破りの」ノーザンライト・ボムを神取が発射。しかしカウント2!フラフラと両者は立ち上がると
両者顔面パンチのクロスカウンター!!!
両者倒れるも、なんとか這って神取の上に乗った北斗。カウントするレフェリー
1・2・3!
北斗晶が神取忍から勝利を挙げました!
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セコンドに支えられつつも「これで終わりじゃねえ」と吐き捨て、自分の足でスタスタとしっかり歩いて帰る神取忍。その底しれぬ強さへの幻想がさらに強くなる結果となりました。まさに「ミスター女子プロレス」
一方疲労困憊、力尽きた北斗。セコンドに介抱されてなんとか状態を上げて座り、「神取!お前にはプロレス愛がない!柔道かぶれのお前には負けない!!!」と絶叫。
ようやく手を挙げられる北斗。正面にいるのは美馬姉さんこと下田美馬。美人!
こうして伝説の一戦は終わりました。北斗晶はここからトップレスラーとして対抗戦の先頭に立って闘い、東京ドームのメインを飾り、1995年には佐々木健介と結婚。その後GAEA JAPANに移籍して引退後は佐々木健介のサポートとして全日本プロレスに上がり、「鬼嫁」としてバラエティで活躍。テレビタレントへの道を進んでいきます。
全日本女子プロレス/伝説のDVDシリーズ BIG EGG WRESTLING UNIVERSE ~憧夢超女大戦~ '94・11・20 東京ドーム(廉価版)
- 発売日: 2015/02/18
- メディア: DVD
#プロレス界のバランスを変えた試合というハッシュタグからこの試合を振り返りましたが、個人的にはこの試合が今でも女子プロレスの原体験として頭にこびり付いてます。
私、今も女子プロレス、東京女子プロレス、スターダム、SEAdLINNNG、センダイガールズ、ガトームーブなど見に行きますが、やっぱりこの日の試合に勝るものはなかなかありません。この4月2日に出場していて今でも現役の選手が何人かいるように、このときの女子プロレスラーは運動能力的にも、体格的にも今の女子プロレスラーより恵まれている人が多かった。打撃もほんとにガツガツ入れてたし、なにより互いに本当に憎しみ合ってるのが伝わってきたりしたのでその迫力もありました。
なにか、プロレスというものの根本を洗い出して突きつけられたような、そんな試合だった北斗晶vs神取忍。どうか未見のかたは一度DVDで見てください。私はただただ凄いな!と圧倒されました。女と女の闘い。女子プロレスファン必見です。