男マンの日記

マンガ、落語、お笑い、プロレス、格闘技を愛するCG屋の日記。

2021年2月12日 BAR「OiRAN」のレモンサワーと武藤敬司に酔いしれた夜。

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ノア武道館メインイベント、潮崎豪VS武藤敬司

新宿ゴールデン街にプロレスファン、時々プロレスラーが集まる店「シエロ」というお店があり、私も時々呑みにいかせてもらってます。

そして去る2月12日、そこで時々一緒になり、ときどき呑みながら話したりしてた常連のシノブさんがやっていた新宿二丁目のバー「OiRAN」が先週をもって営業終了ということを聞き、仕事帰りの私はJR新宿駅を降りてお店に向かっていました。そして向かいながらチラチラとスマホでプロレスリング・ノアの武道館大会をチェックすると、メインイベントの潮崎豪VS武藤敬司が始まるところでした。

お店に着くと常連さんで賑わう中、丸テーブルの席に座ってレモンサワーを注文。常連、というほど通えず、特に常連に知り合いも居ない私。忙しそうに立ち働くシノブさんに挨拶し、奥さんに以前店にいたときの話をしたりして、「ああ、もっと常連になれるくらい来れたら良かったな」と勝手なことを思いつつレモンサワーをおかわりして改めてスマホの画面に目を落としました。

バーの喧騒の中、無音で見る潮崎豪VS武藤敬司。思えば潮崎豪は2020年のプロレスリング・ノアをその右腕で支えてきました。藤田和之と睨み合い、中嶋勝彦に蹴飛ばされ、拳王に踏みつけられ、杉浦貴に投げ飛ばされ、体がボロボロになるまで相手の攻撃を喰らいながらも愚直にチョップを叩き込み、ラリアットでなぎ倒してプロレスリング・ノアを守ってきた。そしてその結果がこの日の日本武道館大会。ノアファンの悲願が叶ったこの日のメイン、相手はプロレスリング・マスター武藤敬司。プロレス界の重鎮、天才でありながら、ノアの武道館に一ミリも思い入れのなさそうな武藤とメインで闘う潮崎。試合はすでに中盤を迎え、潮崎が武藤の足四の字で苦悶の表情を浮かべていました。

   

観客に「幻」を見せた。天才・武藤敬司

見慣れた武藤の足四の字。潮崎のスタイルには付き合わない、と豪語していた武藤はしっかりと武藤敬司でした。低空ドロップキックを挟んで再び足四の字。もう膝が悪くなかった武藤を思い出せないくらい定番となったこのコンボ。そして攻めながらゆっくりと間をとってのそっと起き上がってのシャイニングウィザード。しかし潮崎も反撃のラリアット。両者が倒れて天を見上げる。ああ、ノアだな~、と。倒れた潮崎の両肩には厳重なテーピング。体がボロボロなのがわかります。

武藤のシャイニングウィザード、潮崎のラリアット、チョップ、ゴーフラッシャー。試合は20分を経過し、徐々にフィニッシュが見えてくる時間帯。潮崎はリミットブレイク、ゴーフラッシャー、ラリアットとたたみかけて点を指差してコーナーに登ってムーンサルトプレス。しかしこれは武藤にかわされ、反撃に出た武藤はシャイニングウィザード。後ろからさらに一発、大きく吠えた潮崎に前から一発。フォールするもカウント2。そして、ゆっくりと立ち上がった武藤。シュミット式バックブリーカーの形で一度持ち上げるも失敗。観客が一瞬ざわめきます。そしてもう一度持ち上げたとおもったらなんと!エメラルドフロウジョン!カウント2!武藤敬司が三沢光晴の技、エメラルドフロウジョンを出した。レモンサワーを呑みながらおお・・・。と小さく呟いた私ですが、その後すぐ息を呑みました。なんと、もう一回シュミット式バックブリーカーで潮崎豪をマットに寝かせた武藤敬司がコーナーに登り、後ろ向きにトップロープの上に立ったのです。

ムーンサルトプレス!?

武道館全体がそう思ったのか、観客がざわざわする中、その体勢のまま固まっている武藤。そのまま5秒・・・10秒・・・・。武藤はそのままコーナーを降りました。私は酒場の喧騒の中、震えが止まりませんでした。

武藤敬司がコーナーポストに登ったあの瞬間、武道館に集まった観客、そしてAbemaTVで見ているプロレスファンの頭の中には武藤敬司のあの低空でスピーディーなラウンディング・ボディプレスが思い浮かんだことでしょう。新日本時代、nWO時代、全日本時代・・・。それぞれのファンの中にそれぞれの武藤敬司がいて、それぞれのムーンサルトがある。G1初優勝時のムーンサルトからプロレスリング・マスターズでの「ラスト・ムーンサルト」まで。そんな色んなファンに心の中のムーンサルトを呼び起こした。あの「シュミット式バックブリーカーから後ろ向きにコーナーポストに登る」という動きによって、ムーンサルト・プレスを武道館に蘇らせた。「思い出」という必殺技を武藤敬司が繰り出した。恐るべき武藤敬司。あの状況であのムーブを繰り出した武藤敬司。まさに「天才」だし「確信犯」。「表現者・武藤敬司」が唯一無二だということをこのムーブで証明した。震えました。

   

観客に「現実」を見せた。武藤敬司58歳

心を震わせるムーブを見せたとはいえ、絶好のチャンスを逃した武藤に潮崎が襲いかかります。ラリアットからコーナーに武藤を上げた潮崎は、コーナーに登ってから垂直落下式ブレーンバスターで武藤をキャンパスに叩きつけ、その落差に観客のどよめきを誘う。これはカウント2に終わりますが、エルボー連打からローリングエルボー。そしてムーンサルトプレス。三沢光晴と小橋建太を完全に背中に背負った潮崎豪。これで決まったかと思わせましたがカウント2。完全に「決まるところ」でしたが意地で返した武藤。でも、ここから潮崎が豪腕ラリアットで決めるかな、と思ったそのときでした。

一発ラリアットを叩き込み、しかし倒れない武藤。雄叫びを上げ、もう一度ロープに飛んだ潮崎、そこに飛びついた武藤が渾身のフランケンシュタイナー。ごろん、となんとか丸め込んだ武藤、体制を崩しながら潮崎の首根っこを抑え込んでカウント1・2・3と数えられる。鳴り響くゴング。呆然とする潮崎、流れるHOLD OUT。そう、武藤敬司が潮崎豪に勝利、GHCヘビー級王座を奪取したのです。

フィニッシュのフランケンシュタイナーは決して華麗な、美しい技ではなかった。もう高く飛べない武藤がなんとか潮崎の首に足の先をひっかけ、ムリヤリ回転して抑え込む。膝には人工関節、もう58歳の武藤敬司の精一杯の技、そして体勢を崩しながら潮崎の首根っこを掴んでムリヤリ奪った3カウント。ムーンサルトの「幻」を見せた武藤敬司が最後に見せた今のリアル、不格好なフランケンシュタイナー。幻と現実、両方を我々に見せてくれた武藤敬司。プロレスという芸術の豊かさ、凄さを見せつけられた。そんなタイトルマッチ、武道館のメインイベントでした。 

週刊プロレス 2021年 3/3 号 [雑誌]

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  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: 雑誌
 

 天才・武藤敬司。そして再び立ち上がる潮崎豪

シノブさん夫妻に送られてOiRANを出て、地下鉄で帰路につきながら、武藤敬司が頭から離れませんでした。そして、あれだけ去年体を張り、身を粉にしてノアを引き上げてきた潮崎豪について。潮崎が勝ってガッツポーズ、大団円にならなかった武道館大会。しかしこれがかえって「To Be Continued」。ノアの武道館はこれで終わりじゃない、当然のようにまた定期的にやっていくんだ、というメッセージのようにも思えました。

業界トップをいく新日本プロレス。それに追いつけ、追い越せとハッキリ明言しているプロレスリング・ノア。だからこそ武道館にたどり着いたし、まだまだここで満足しない。業界ナンバーワンになるためにはまだまだ潮崎は倒れ、立ち上がらないといけない。過酷すぎる・・・。しかしそれはもう目の前に来ているようにも思います。

そして武藤敬司。こんなに観客を手玉に取り、感情移入させるプロレスラーが過去いただろうか。58歳にしてもう出来ないことだらけになりながら武道館のメインでムーンサルトという幻を見せる。天才としか言いようがない。そしてそんな武藤を入団させてしまったプロレスリング・ノア。誰が武藤の遺産を奪い取るのか。そして我々は武藤の試合をあと何回見れるのか。酒のせいか、武藤のせいか。ぼんやりとした頭を抱えて帰った、酒と酒場とプロレスに酔いしれた。そんな2021年2月12日でした。

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