男マンの日記

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 吉田豪「書評の星座~紙プロ編」ジャックナイフ吉田豪全開!あの頃のプロ格の熱気が蘇る!

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 吉田豪「書評の星座~紙プロ編」発売!驚異の全575ページ!

先日、吉田豪の「書評の星座~紙プロ編」を購入しました。前作の「書評の星座」でもヤング吉田豪の切れ味を見せつけてましたが、今回はゴング格闘技時代の記事をまとめた前作よりさらに前。紙のプロレス&紙のプロレスRADICAL時代の原稿。というわけで、より切れ味の鋭い吉田豪を観ることができました。ちなみに前作の紹介はこちらのエントリから。

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格闘技冬の時代に差し掛かる時期だった前作と違い、こちらは格闘技が一大ムーブメントを巻き起こした時期の連載。ちなみにこの時期の格闘技で主要な出来事を書いていくと

1997年 PRIDE.1 高田延彦VSヒクソン・グレイシー

1999年 前田日明引退(VSアレキサンダー・カレリン) 

2000年 PRIDE GRANDPRIX 2000 桜庭和志VSホイス・グレイシー

2001年 PRIDE.13 桜庭和志VSヴァンダレイ・シウバ

2002年 K-1 MAXシリーズ開始

2003年 大晦日 地上波3局格闘技大戦争 

 と、このように格闘技が大いに盛り上がっていた時期。掲載誌の「紙のプロレス」も、版型が大きくなり「紙のプロレスRADIKAL」となって飛躍的に部数も伸びた時期。ということで格闘技書籍も大量に出版されていました。ゆえに、この本は前作と比べて100ページ多い575ページで2900円(税別)となっています。この読み応えは凄い。読んでも読んでも終わらん!そして、出版点数が多いということはクオリティが低いものも混じっているわけで、それを片っ端からぶった切っていく吉田豪の容赦なさが存分に発揮されています。今の吉田豪からは考えられないギラつき。そしてプロレス・格闘技への熱を感じられる一冊です。 

   

鋭いナイフを振るう「キラー吉田豪」!触るもの皆一刀両断!

というわけで、とにかくクオリティの低い本、面白くない本をブッタ斬りまくっているこの本ですが、真っ先に目につくのが”SHOW"大谷氏への容赦ない批判の数々。毎回の連載の見出しを追っていくだけでも

「理解の範疇を越えているShow氏のあとがき」

「Show氏よ、気概がないならさっさと辞めるべし」

などと、ライター廃業を勧めるくらいの激しい口調。もちろん本文できっちりと彼の視点のズレっぷりや面白くならない理由などを上げて「詰めて」いくスタイルなので納得感はあるのですが、今の吉田豪しか知らない人にとってはこの攻撃性は新鮮なはず。さすがまえがきで「あの頃のボクは完全にどうかしてました」と言い切るだけはある。

しかし、これだけ批判が多いということは、”SHOW"大谷氏が沢山本を出してたということでもあり、前回の「ゴング格闘技編」より扱っている書籍の点数も多い。それだけ世の中が格闘技ブームだったということの証左でもあるでしょう。

そして、理論的に”SHOW”大谷氏を批判していくだけではなく、高田VSヒクソン戦では「高田がリングに向かうだけで思わず泣き」、高田の敗戦に「心からガッカリして」いたくらいの熱を持っていたということも今の吉田豪を見ると意外過ぎるはず。

それに注目すべきは「プロレスの仕組みを書いた」として大きな波紋を巻き起こした「ミスター高橋本」に対しても、「プロレスへの思いの強さ、正義感から裏側を暴露した」というスタンスのミスター高橋に対して 「新日本との確執があったから暴露本を出しただけじゃないのか」、「自らの事情を書かず、プロレス愛ということにして暴露するのはズルい」と指摘するなど、ポジショントークに陥りやすいプロレスラー、プロレス関係者らへの警鐘を鳴らしていく。このへんは今にも通じる、ブレない姿勢を垣間見ることができます。

 

他にも一時「紙のプロレスRADICAL」に抗争を仕掛けていた「プロレス激本」への容赦ない攻撃、三沢、高山、秋山が語る川田利明の人間性についての描写を詳細に取り上げて色々とあぶり出していく手法、井上貴子のファンクラブ会報に載っていた「嫌いな関係者ランキング」を取り上げるなど、常に尖った姿勢を崩さなかったこの書評コーナー。「あのころの」新日本プロレス、PRIDE、K-1、まだ総合格闘技と打撃格闘技、プロレスが入り混じって熱量を発していた頃のカオスながらも無闇に盛り上がっていたあの時代。それを吉田豪が悪意丸出しで切りまくっているんだから面白くないはずはない!

吉田豪の切れ味も楽しめますが、あの時代の熱気が蘇ってくるような一冊。時代の歪んだ鑑とも言えるでしょう。

   

まとめ

濃密な時代の濃密な書評本。読み切るのにかなり時間はかかるとは思いますが、今のように行儀よくプロレスと格闘技が棲み分けている時代からは想像できないカオス状態で盛り上がりを見せていた業界を垣間見える一冊でもあると思います。そして、今のようなコンプライアンスのない時代、プロレス・格闘技関係者がどんなに無防備で業界批判やタブーの告白を行っていたかもわかるはず。

業界全体が世間を巻き込んだ上で揉めまくり、ギスギスし、でも互いに利用しあってパイを拡大していった時代。その揉め事、登場人物の面白さを抽出して料理していく吉田豪の手法、これらが噛み合ってドロドロとしたグルーヴを生み出している一冊。吉田豪好き、プロレス、格闘技の濃いめのファンなら楽しめるはずの一冊。全部読むと頭がボーっとしてくる名著です。必読!