今回の「問題作」和田拓也VS松井大二郎。ひたすら漬け続けた15分。客にも試練を強いるハードヒット流の謎掛けと言えなくもないか。個人的にはポジション取り合う攻防は面白かったです。
バチバチの団体対抗戦!GLEATvsGLEAT!
6月9日、新宿FACEに「LIDET UWF Ver.0」を」観戦してきました。第一次UWF旗揚げが1984年。第二次UWF解散が1990年。もう30年前のことになりますが、この令和になってからまさかのUWFを冠に抱く団体が旗揚げ。その名もGLEAT。「LIDET UWF」という大会名での旗揚げ戦が今回。何度かYOUTUBEで実験マッチ的な試合を配信していましたが、リアルな大会はこれが初。そしてそれがいきなり佐藤光留率いる「ハードヒット」との全面対抗戦となりました。
「ハードヒット」はいわゆる団体というよりは佐藤光留が開催するイベントという形、道場を持っているわけではなく、佐藤光留の中にある「UWF」の理念に沿って選手を集めて興行を続けてきました。イベントとはいえ、佐藤光留、川村亮、和田拓也、関根”シュレック”秀樹、阿部史典(ハードヒットでは阿部諦道)と、レギュラーの選手と共に闘っていく「戦闘集団」と言っていいと思います。
6月9日の興行が決まってからハードヒットの大会にLIDET勢がリングに上げられて改めての宣戦布告。それから改めて記者会見が行われ、対抗戦ムードが高まっていきました。本当にハードヒット側がとことんLIDET側を認めないことで緊張感が高まったまま当日を迎えたのは凄かった。久々に本当の「団体対抗戦」の空気のまま当日を迎えることが出来ました。
ちなみにLIDETとハードヒットの間に流れる深い河についてはこのエントリで書きましたので良かったら一読ください。理想に向かって進むLIDET、他競技の強者が集まったハードヒット。UWFという名のもとに活動しては居ますが、実際は正反対の集団のように思います。
バチバチの対抗戦。秒殺、KO、そして大逆転劇!
そして当日、コロナ禍の中で間引いているとはいえ満員の新宿FACE。LIDET UWFのテーマが流れ、LIDETの選手が入場。田中稔の挨拶からイベントが始まりました。その後はビジョンでUWFルールの説明。 ハードヒット側が全く姿を見せなかったことで、緊張感を保ったまま第一試合を迎えました。
第1試合はカズ・ハヤシVS佐藤光留。カズ・ハヤシは1992年デビュー、キャリア30年近くになりますが(佐藤光留は2000年デビュー)UWF、総合格闘技的な試合のキャリアはなし。黒のショートタイツとレガースというUWF新人選手スタイルで挑みました。
試合はまさに秒殺劇。掌底の連打でダウンを奪った佐藤光留、カズもなんとか立ち上がりますが、すかさず蹴りの攻防から飛びついてフロント・ネックロックで捕獲。そのまま倒れ込んで締め上げるとカズはなすすべなくギブアップ。わずか42秒で佐藤光留が勝利を収めました。
ゴングが鳴るとマウスピースを投げ捨て、勝ち名乗りを上げてさっさとリングを去っていった佐藤光留。いきなり「UWFの凄み」を短時間で観客に見せ付けてくれました。まさに「なにもできずに」終わったカズ・ハヤシ。佐藤光留の「UWFという衝撃」を観客とともに体感した試合。正直、この興行はこの試合があったことで既に成功だったように思います。それだけのインパクト。痺れました。
そして第二試合はダブルバウト。田中稔&渡辺壮馬vs関根シュレック秀樹&阿部諦道。
UWFのタッグマッチを行っていたのは第二次UWFが三派に分かれてからのUWFインターナショナルが印象的でしたが、ハードヒットでも継続的に行われていました。
GLEAT側で存在感を放ったのは渡部壮馬。阿部とは打撃、寝技で渡り合い、エスケープを奪われるもガンガン向かっていく気合。シュレックにも臆せず対峙していく。いかにも新人(2017年デビューではありますが)らしい勢いと気持ちの強さを感じました。
しかし、そこは阿部とシュレックの地力の強さが徐々に発揮されていきます。ハードヒット継続参戦している二人は打撃でも寝技でも強さを見せて試合を全体的に制していく。渡辺をテイクダウンしてからのアキレス、腕十字と繋げてエスケープを奪った阿部は田中稔からも果敢に関節を取りに行く、そして田中稔の低空ドロップキックを二連発で喰らいつつも重い打撃で圧倒していくシュレック。
軽量級の渡辺、田中稔と阿部は目まぐるしく攻守が入れ替わる寝技の攻防で見せ、シュレックは一発の重さで存在感を発揮する噛み合ったタッグマッチ。スピード感ある攻防が繰り広げられた後、シュレックがオーバーハンドの掌底連発で渡辺壮馬からダウンを奪うと往年のゲーリー・オブライトばりのジャーマン・スープレックス一発でダウンを奪ってレフェリーストップ!インパクト!阿部&シュレックのハードヒット組が勝利。これでハードヒット二連勝となりました。?
第1試合がインパクト充分な短期間決着だったのと打って変わってこのダブルバウトは山あり谷あり、スピーディーなテクニックの競い合い、一発で決めるスープレックスとしっかりとUWFの面白さを魅せるような試合。作品としての完成度を感じました。
試合後睨み合う稔とシュレック。シングルマッチの機会はあるんだろうか。?
第3試合は飯塚優vs松本崇寿。ハードヒットに継続参戦、プロレスリングHEAT UPからGLEATに移籍した期待の星こと飯塚優。「和製ヴォルク・ハン」とキャッチフレーズが付けられるくらい寝技へのこだわりが強く、リングスルールでZST出場したことも。
一方松本崇寿は柔術茶帯。(ちなみに茶帯は黒帯の一つ手前。柔術アダルトの部は青帯→紫帯→茶帯→黒帯の順で等級が上がっていきます)ハードヒットでも回転体の柔術で観客を魅了しています。
そんな二人の試合は回転体の寝技の攻防。クルクルと攻守が入れ替わり、互いに得意なポジションを取り合っていくような試合が続きます。
しかし早々に松本がフットチョークでエスケープを奪い、試合をリードしていく展開に。寝技の攻防の中でも前転してバックを取る動き、オモプラッタ、下からのコントロールと、柔術のテクニックで差を見せつけていきます。しかし飯塚も足関節を中心に徐々に反撃。掌底からのアキレス腱固めでエスケープを奪うなど健闘しますが、松本が腕十字で飯塚を追い込んだところで時間切れのゴング。残りポイント2-3で松本崇寿が勝利を飾り、ハードヒット三連勝となりました。
リングススタイルに憧れを持ち、寝技を磨いてきた飯塚。しかし、実際に柔術茶帯の松本とはやはり寝技のテクニックの奥行きで差があった、というのが印象でした。一つ一つの技というより、その技にいくパターンの多さ、相手の仕掛けをひっくり返す技以前の動きのバリエーションで松本に一日の長を感じました。
しかし、飯塚が打撃では松本より優位に立っていたのは事実。そこに徹底して勝利を掴みに行くという展開もあってよかったように思います。ハードヒットに付き合ってしまった飯塚。そこで松本を超えていくためには格闘技の経験を積んでいく必要があるように思った、そんな第三試合でした。
そしてセミファイナル。和田拓也VS松井大二郎。和田拓也は去年の後半に行われたKING of HARD HIT tournamentの優勝者。この時点で「ハードヒット最強」の称号を持つ人物と言っていいでしょう。一方、松井大二郎は去年GLEAT入団。言わずとしれた元PRIDEファイターですが、本格的な試合からはかなり遠ざかっています。
そして試合といえば、一方的にワダタクこと和田拓也が松井大二郎を「漬ける」展開に。試合開始割と直後から松井の息が荒くて気になっていたんですが、早々に抑え込んだワダタクがトップキープしながら抑え込み続ける。スタンドに戻ってもテイクダウン。一瞬松井が上になってもすぐに返して上をキープする。細かくポジションを変えつつも有利なポジションを取り続け、松井に攻めるスキを与えません。
松井は息を切らしながらも抑え込まれ続け、時々フラストレーションからか叫び声をあげますが、冷静沈着そのもののワダタク、表情も変えずに抑え込み続けます。
結局、試合終了直前にバックチョークを仕掛けたりしたものの、両者ノーポイントのままゴング。圧倒したという印象を残したワダタクですが、両者引き分けとなりました。
もともと、ワダタクがツイッターでこの試合について言及しており、またtwitterでも度々LIDETへの不満を表明していたので、その「不機嫌さ」の表明でもあり、松井大二郎との力量の差をまざまざと見せつけた試合でもあり、また田村潔司が唱える「回転体」へのアンチを示したという見方もできるように思います。
お早う
— 和田拓也 (@wadataku0214) 2021年6月9日
昨年末に赤いパンツの頑固者が仕切るUに、少し喧嘩を売ってそれが半年後には喧嘩する事になり。
我々のUをどんな風に見るのか。
色々不満はあるけど、赤いパンツの頑固者の前で試合する事になるとも思ってもいなかったので不満言いつつ楽しく生きてる朝です。
今朝も珈琲が美味しいです。
まさにこれこそが和田拓也という人間の面倒臭さ、こだわり、そして表現の不器用さが凝縮した試合だったとも言える、そして、ポジションキープのための細かいテクニックを見れたところで個人的には楽しめました。 一言言えるのは、ワダタク面倒くさい!
こう書きましたが、じゃあ次もやってほしいかというと決してそういうわけではないです。ツイッターでそのときは「もうワダタク先生は出るたびに15分漬けて欲しい」みたいなことを書きましたが、やっぱり次は痛快に勝って欲しい。去年のハードヒットトーナメントを見ている自分としては、あの強い和田拓也をGLEATに叩きつけるタイミングが来ることを待ってます。
そしてメインイベントは川村亮VS伊藤貴則。前回のハードヒットで直接マイクのやりとりをした両者。メインイベントでぶつかりあうことになりました。
そして試合が始まると川村のワンサイトゲーム。組み付かれても上を取り、掌底からテイクダウンしてガンガン顔面に掌底をブチこんでいく。本当にゴツゴツと音が聞こえるような掌底からアームロックでエスケープも奪って圧倒。とにかく川村の強さが際立つ展開が続きます。
再び伊藤を倒した川村、グラウンドで再びガンガン掌底を顔面に打ち下ろして防戦一方の伊藤、まさに「かわいがり」の雰囲気も流れてきた中、伊藤エスケープ。試合が決まるのは時間の問題のように見えました。
しかし、果敢に掌底の打ち合いを挑んだ伊藤、川村をジャーマンで投げてダウンを奪い、すかさずのハイキックで再び川村ダウン!そしてそのまま倒れて起き上がれない川村、レフェリーが無情のストップで伊藤貴則が大逆転勝利を飾りました!この日最大のアップセット!
試合は伊藤が大逆転勝利、大盛りあがりのエンディングでしたが、見ていた感想は川村の強さが際立ちました。スタンドでもグラウンドでも圧倒。力の差を見せつけるようなファイトを本当にフィニッシュ前までは繰り広げていました。
責任感と気合でなんとか伊藤が勝った、という印象のメインイベント。川村としては本当に「正直ポカした」という試合だったと思います。3敗1分けだったGLEAT勢。メインで唯一の白星を挙げ、新宿FACE大会は終了しました。
出会ってしまった宿命のライバル。LIDET UWFvsハードヒット!
こうしてLIDET UWFの新宿FACE大会は終了しました。見た感想としては非情に面白かった!ハードヒットとLIDET UWFという理念の異なるUWFがこの令和にぶつかりあったことでバチバチの化学反応が起きていた。そのことがこの興行を生んだ。これでハードヒットとLIDET UWF、互いにとって互いが欠かせない存在になってしまったように思います。
今回感じたのは、「UWF」というルール、スタイルがあるとして、そのスタイルを一生懸命練習してきたLIDET勢、普段他の刀を磨きながら、呼ばれて「UWF」というスタイルに合わせていくハードヒット。型にはめていくLIDET、野武士というか、はみだしたまま闘うハードヒット。どちらとも互いを引き立たせる「外敵」同士でした。
興行の後の田村潔司のコメントは「また何年後かにやりたい」的なこと言ってましたが、いやいや。何年後かにどっちの団体もあるかどうかわからないわけですし、この対抗戦はこれからもバンバンやってほしい。そもそもGLEATプロレスというものがあり、LIDET UWFというものが別々にあるGLEAT。格闘技での実績がある選手が集まるハードヒットと闘うことはプロレス部門との差別化としても願ったりかなったりのはず。幸いこの興行の後もバチバチしてることですし、またああいう緊張感を見たい。
いや~、面白かったです!